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3.目論み
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道の真ん中で、妙に甲高い男の声が響く。

「はーっはっはっはっ!見つけましたよ、ジェイド」




ルーク達一行は、朝早くに宿を出発していた。…というのも、ディストはジェイドのおっかけ(?)であるわけだから、ジェイドがいる場所に自分から現れるのでは…という意見により、いつ戦闘になってもいいようにフィールドにいる事にしたのだ。



そして、予想は的中。






「やれやれ。ここまで予想に違わぬ行動をされると、呆れてものも言えませんね」

「なんですって!?負け惜しみも大概になさいっ!私が現れて驚いたのでしょう!!」


「…はぁ。コレと話していると疲れます。皆さん、さっさと片付けましょう。」

「きぃーーっ!せいぜい、私を甘くみた事を嘆くがいい!いでよ、カイザーディストMAX!!」


ガッシャン、と音をたててお決まりのメカが現れた。勢いよく振り下ろされる腕をかいくぐって、ルークとガイが攻撃を加える。アニスは後から術をぶつける。

「飛燕瞬連斬!」

「魔神月詠華!」

「ネガティブゲイト!」

何度も斬り付ければ、いつものとおり重そうな巨体が揺らぐ。そしてそこにジェイドが、カイザーディストの弱点である水属性のスプラッシュを叩き込めば、それで終わるはずだった。

そう、はずだったのだが。


いつまでたってもカイザーディストは倒れない。ティア達が援護・回復をしているものの、体力には限界というものがあって。
ルークとガイ達の動きは、最初と比べると大分鈍くなっていた。アニスの額からは汗が流れ、ジェイドの顔にも、少しばかりの焦りが見られる。
そして、彼らは気づくべきだったのだ。カイザーディストが段々傷ついていくのに、ディストがいつものように騒がない事に。それどころか、ディストが薄い笑みを浮かべていた事に。

相手がディストだからと油断して相手の表情を気にしなかったのは、彼らの初歩的な―――しかし最大のミスだったのだ。



上から椅子に乗って戦闘を眺めていたディストは、そろそろですか、と呟いてにやっと笑うと、あるものを手に取り、それを―――





アニスに向けて放った。



細い針のようなものが、ひゅっ、とアニスに向かって飛んでくる。
そしてアニスに対しての攻撃をジェイドが見過ごすわけがなく…術の詠唱をやめて走りだしていた。

「アニス!!」

「…え」






パシュッ… …









「たい、さ…?」


アニスの視界は、ジェイドの青い軍服で覆われていた。
そう…ジェイドは、アニスに覆い被さっている。そのジェイドの肩には、長く細い、鋭利な針のようなものが突き刺さっていた。


「…くっ…」

「た、大佐ぁ……!」

仲間達が、駆け寄ってきた。カイザーディストの攻撃は、いつの間にか停止している。

「旦那!!」

「大佐!」

「しっかりなさって!」

「…く、ぅ…」

ジェイドは眉間に皺を寄せ、苦しそうに膝をついた。

「ちくしょー!ディスト!ジェイドに何しやがった!!」

「ふふ、毒針を刺しただけですよ。アニスに向かって針を飛ばせば、ジェイドが飛び込んで来ることは分かっていましたからねぇ。安心なさい、命には別状ありませんよ。私も友の命を奪おうとは思いませんから。」

「…友です、か…どこのジェイド、でしょうねぇ…そんな物好き…は。」

「大佐、喋ってはいけませんわ!」


ジェイドがいつものように切り返すが、その声には力がなかった。

「…んのやろぉっ!!」


怒りを抑えきれなくなったルークは剣を持ち直して駆け出し、斬りかかろうとした。だがディストは椅子ごと、すぅっと上にあがる。ルークには、届かない。

「ふふ、とりあえず今日の目的は果たしました。これ以上戦う気はありませんよ。ジェイド、明日になったら迎えに来て差し上げますよ!はーっはっはっは!」

「…な、に?」

「どういう事だ、ディスト!」
全員が、不可解なディストの言葉に訝しげな顔をする。
ガイが問うが、見上げた先にはすでにディストの姿はなかった。

「…畜生…、旦那、平気か!?」

話しながら、ガイはジェイドを地面に寝かせる。


「どちらかと、言えば…平気と、は…言えません、ねぇ」

ジェイドは、力無く笑ってみせた。珍しく余裕のない彼の表情に、全員不安を隠せない。

「大佐…ごめん、なさい!私が…私が油断してたから…っ!」

しばらく呆然としていたアニスがジェイドのもとに駆け寄る。茶色の大きな瞳からは、涙が溢れていた。
そんなアニスを見て、ジェイドは彼女を慈しむような表情で微笑む。

「アニス…泣いてはいけません。貴女の涙は…針などより、ずっと鋭利に…私を刺すんですよ?」

「大佐…でも…」

「私は、アニスの笑顔が大好き…なんです。…大丈夫。貴女を置いて…死んだり、しません…か、ら……」


ふ、とジェイドの瞼がおりた。

「大佐?大佐ぁ…!」

「大丈夫だアニス。旦那は気を失っただけだ」

「でも…でもっ!」

「アニス!」

びく、とアニスの身体が震えた。

「君がうろたえてどうする。君はジェイドの恋人だろう。落ち着くんだ。」


「…っ!……うん、そう…だよね。私が一番、冷静に大佐の側にいてあげなきゃ」

アニスは、意思の強い瞳を取り戻し、落ち着いて言った。


「とにかく、ジェイドを宿へ連れて行こう…!」



ルークの言葉に、全員が頷いた。
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