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一枚上手?(JA)
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「大佐!いい加減休んで下さいっ!」

「嫌です。」



ここは宿屋の一室。もっといえば、ジェイドの部屋。時計は、そろそろ日付が変わるころ。いつものアニスならもう眠りについているはずだが、今そうでないのには理由があった。


「だって大佐、もう何日も寝てないじゃないですか!仕事があるからって…いくら大佐でも体壊しちゃいますよぅっ!」

「お断りです♪」


ジェイドは、満面の笑みでアニスに断った。しかし、その笑顔がいつもの生き生きしたものには見えない事は、アニスの見間違いではない。
そう。アニスがこの時間にここにいるのは、ジェイドを休ませるためだ。ジェイドの顔は、明らかに疲れている。表情を隠すのが上手い彼がこんな顔をしているということは、おそらく抱えている疲労は相当なもののはず。だからこそアニスは、粘りに粘ってジェイドに頼んでいるのである。


「お願いですから、休んで下さいよぅっ!大佐は私達の指揮官なんですよ?倒れたらどうするんですかぁ!」

「おや、私の心配ではなく、指揮官の心配でしたか。アニスは薄情ですねぇ」

「茶化さないで下さい!」

あくまで退かないアニスに、ジェイドははぁ、と溜息をついた。


「とにかく。この書類を片付けるまで休むつもりはありません。部屋に戻りなさいアニス。」


ぴしゃり、とジェイドは厳しい声で言い放った。アニスは、びくっ、と硬直する。軍事訓練を受けているアニスは、嫌でもこの手の声に反応してしまうのだ。
しかし、聡いアニスは、ジェイドが本気で怒っているわけではない事に気づいている。アニスは出ていく事はせず、その場でむぅ、と膨れてみせた。

ジェイドはそれを見て、やれやれ、と呟くと、そのまま書類に目を落とした。



(甘いよ、大佐♪このアニスちゃんがこれくらいで諦めるはずないでしょ)



アニスはポケットにしのばせてあったある物を取り出すと、ジェイドに近寄った。

「たーいーさぁ」

アニスは、子供っぽく後ろからジェイドの首に手を回した。ぎゅうぎゅうとジェイドを引っ張って甘え声をだす姿は、父親に甘える娘そのもの。
しかし寝不足でカリカリしているジェイドには、それをからかう余裕はなかった。ひとつ溜息をついてから、ゆっくり振り返る。

「…アニス、しつこいで………っ!?」






言い切る事は、できなかった。アニスに唇を塞がれてしまったからだ。さすがのジェイドも、これを防ぐ事はできなかった。先程までの子供らしい姿からは、予測もできない行動。しかもあのアニスが、まさかこの自分にこんな事をするとは思わなかったのだ。

そして、初めて触れた甘い唇に酔ってしまったジェイドは、アニスの意図に気づけなかった。


「…ん、んぅ…」



ごくん…


「!?」


ジェイドは、ぱっとアニスを引きはがした。

「アニス、今何を……ぅ…」

「おやすみなさい、大佐♪」


「あ、に……」

ジェイドの身体は、ゆっくりとアニスの腕の中に崩れ落ちていった。




「アニスちゃんだって、負けっぱなしじゃないですよぉ?今夜は、私の方が一枚うわてでしたね〜」

アニスがジェイドに飲ませたのは、即効性の睡眠薬。現に、腕の中の男は穏やかな寝息を立てていた。


「神託の盾騎士団導師守護役所属、アニス・タトリン唱長勝利ー…なんちゃって☆」



そう言って、アニスは満足げな微笑みを浮かべたのだった。
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