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バレンタイン2010(JA)
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【chocolate Line】

口論と言う名のバトルが繰り広げられているのは、宿屋の一室。ジェイドにあてがわれている部屋だ。

「アニス、もう部屋に戻りなさい」

「えぇー!?もっとおしゃべりしましょうよぉ!」

「駄目です」

「もうちょっとだけいいじゃないですかぁー!」

「子供は寝る時間ですよ?」

ジェイドは、満面の笑みでアニスを見た。暗に、“いうこときかないとどうなるかわかってますね?”と言いたいのだ。

「あたしはもう…!」

子供じゃないのに、と続けたかったが、やめた。13歳の自分のどこをどう見ても、大人にはみえない。
否定する代わりに、ジェイドの言葉を無視してぷい、とそっぽを向いてみた。
しかしジェイドは、そんなアニスを気にかけるそぶりも見せずに悠々と長い脚を組み、分厚い書物を開く。その優雅な仕種に、アニスは思わず頬を染めた。



アニスとしてはそっぽを向いた自分を彼に構って欲しかったのだが、如何せん。相手が悪い。アニスの微かな期待に気づいていようといまいと、彼が自分から動く事はきっとないのだ。



こっち向け、こっち向け!私を見てよ…!
念を送ってみても、振り向く様子はない。人の気配に敏感なこの男が気づかないはずはないのだから、おそらく知らないフリだ。
はぁ、とアニスが肩を落としたその瞬間、ふいにジェイドが振り返る。視線が、絡みあう。
ジェイドは、仕方ない子ですね、とでも言いたげに柔らかく微笑んだ。


「…結局、帰らないのですか?」

「…だってー」

「…まぁ、いいでしょう。子供の我が儘に付き合って差し上げますよ。」

「…ありがとうございまーす」

もう少し部屋においてくれるというのは嬉しいのだが、再び子供扱いされたからか素直に喜べなかった。





お互い特に話す事もなくなり、しばらくの間沈黙が続いた。アニスはただ彼の傍にいられればそれで良かったのだが、ふいに彼に聞いてみたくなって口を開いた。


「…大佐」

「なんです?」

本に没頭しているとばかり思っていたのに、まるでずっとアニスの動きを気にかけていたかのようにジェイドはすぐに返事をした。

「…いつになったら…どうなったら大人なんですか?」

「…難しい質問ですねぇ」

ジェイドは、書物から目を逸らす事なく朗らかに答えた。

「ぶー。真面目に考えてくれてもいいのに。……あれ?この箱なんですかぁ?」


アニスの視線の先には、綺麗にラッピングされた箱があった。

「…あぁ、それですか。昼間、ネフリーに貰ったんですよ。バレンタインの季節ですからね。もし小腹が空いているなら、つまんでも構いませんよ」

「まじですか!?じゃあ遠慮なく頂いちゃいまーす」


包装を解いて箱を開けると、上品で高級そうなチョコレートが並んでいた。

そのうちの1つを手にとってぽいと口の中に放り、ほうばる。ほどよい甘さに満足そうなアニスだったが、ふいに眉をしかめた。

「…ぅ」

「…どうしました?」

ジェイドは、しっかりアニスの方を見て尋ねた。

「にっがぁい…」

「…おや、ブランデーチョコでしたか♪」

ジェイドは満面の笑みを浮かべてみせる。

「…随分楽しそうですね大佐。もしかして知ってて勧めました?」

「いえいえとんでもない♪この私がそんな事するわけないじゃありませんか♪」

確信犯だな…とアニスが確信するのに、時間はかからなかった。

「あぁ、そういえばアニス」

「…なんですかぁ? 」


「先程の質問に、答えて差し上げましょう。」


ジェイドは箱の中から先程とは違う種類のチョコを取り出すと、おもむろに口に含む。
そしてアニスを見て微笑むと、彼女に顔を寄せて口づけた。

「…っ!ふ……っ」

ジェイドは器用に舌を使って、口に含んでいたチョコをアニスの口へ運んだ。


「…な、何するん…っ…あれ?このチョコ、甘い…」

「ええ。それにはブランデーが入ってませんから。貴女にはまだそちらの方がお似合いですよ」

「子供扱いしないで下さい!」

「…先程の質問に答えましょう。ブランデーチョコをまずいと感じるうちは子供です。」


「ぶぅ。…その子供に手を出してるのはどこの軍人だか」

「私ですね♪」

「…しゃあしゃあと」

「あいにく、根が正直なものですから」



いつも通りの会話を交わすと、同時に二人は、ふふ、と笑いを漏らした。

「大人か子供かなんてどうでもいいでしょう。私達はこれでいいのですよ」

「そうですね♪」


「…さて、今度こそ時間です。戻って下さいアニス」

「はぁーい」


間延びした返事のあと、おやすみなさいという声とともに扉がしめられた。


「…全く。こんな時間まで男の部屋にいるとは無防備にも程がある。私がどれだけ我慢しているか、アニスはきっと分かってないのでしょうねぇ…」


やれやれ、と言ってジェイドは肩をすくめたのだった。
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