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ホワイトデー2010(GN)
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「なぁアニス、ナタリアを見なかったか?」

「えー、見てないよ」

「…そうか」

ガイはひとり溜息をつくと、アニスに礼をのべてからどこへともなく駆け出した。

今日は14日。所謂ホワイトデーだ。1ヶ月前、ガイはナタリアからチョコを貰っている。――といっても、チョコとは形容しがたい物体であり、それを口にしたガイは死にかけたのだが…それはまあご愛嬌。紳士であるガイは、当然のことながらお返しを用意していた。
ガイは、ルークやジェイドがそれぞれの相手にお返しにあたるものを渡しているのを見て、自分も早い所渡しにいこうと思ったのだが…肝心のナタリアが見当たらない。

「どこ行ったんだ?お転婆お姫様は」

思い付くところは探しきっており、仲間にも尋ねきっていた。それなのに、一向にナタリアに会えない。ガイは、だんだん焦ってきた。もしや、大怪我をして動けないのでは…?よからぬ輩にかどわかされたのでは…?
考え始めてしまったら、もう止まらない。不安が不安を煽る。
さらに、アニスの前に尋ねに行ったジェイドの言葉が頭をよぎった。

『最近、この近辺にタチの悪い魔物が出たそうです。女性ばかりを狙っているらしい。貴方も、大事な女性には気をつけてあげた方がいいですよ?』

てっきり、蒼白な顔でナタリアを探していた自分をからかっているだけだと思っていたが…もしや事実だったのではないだろうか?
もしそうだとしたら、ナタリアは…………



――とここまで考えて、ふいに不思議なものをみつけた。幹に一定の間隔で横長に傷がつけられている、大木だ。

「なんでこんなところに…」

傷のところに手足をかければ、梯子のようにして登れそうだ。この大木が妙に気になったガイは、器用に登り始めた。


「…………!」



登りきった先で目に入ったのは、風に揺れる柔らかな金髪だった。

「…ナタリア?」

返事はない。恐る恐る胸元に目をやれば、かすかに上下しているのが見てとれた。どうやら眠っているだけらしい。

この場所は木の太い枝のところに板が渡してあり、足で立てるようになっていた。どうやら、街の子供達の作った秘密基地のようだ。ガイは板の上に立ち、ほぅ、と息をつくとしゃがみ込んだ。
安堵から、体から力が抜けたのだ。

ガイは顔を上げると、微かな恐怖心を拭いさって、ナタリアの柔らかな身体を抱きしめた。相手がナタリアなら、自発的にさわれる。触れてみてやっと、ナタリアがそこにいることを確信できた。

「…やっと、見つけた…」
とその時、人の気配に気づいたのかナタリアが身じろぎした。長い睫毛がぴくと動き、大きなグリーンの瞳が開かれる。

「……ん…ガ、イ…?」

「おはよう、ナタリア」

ガイは、身体を離してから挨拶をした。
ナタリアはガイの声を聞くなり、ばっと身体を起こす。恐らく意識がはっきりしたのだろう。

「ガイ!?どうして貴方がこんなところにいるのです」

「どうしてって……今日は何日だい?ナタリア」

「…確か14日………あら、ホワイトデーですわね」

ナタリアは、特に驚くでもなく和やかに微笑んだ。いつものことながら、この姫の天然加減には恐れ入る。

「…まぁ、そういうわけで…君にこれを。」

ガイは、持っていたプレゼントをナタリアに手渡す。

「……まぁ!なにかしら…開けてもよろしくて?」

「勿論。」

箱を開ければ、中には可愛らしい香水の瓶。ナタリアは、ガイの顔を見るなりふわっと微笑んだ。

「貴方は本当に、人の欲しいものを当てるのが上手ですのね!嬉しいですわ…ありがとう、ガイ!」

「どういたしまして♪」

相手が君だからこそわかるんだけどね、という言葉は口にはせず、返事だけをした。そこで、ナタリアが瓶をみて不思議そうな顔をしているのに気づく。

「どうかしたかい?」

「…ガイ、もしかして貴方…私を探して走っていましたの?」

「…え」

「その顔は、図星ですのね」

「…どうして分かったんだい?」

ガイの問い掛けに、ナタリアはくす、と笑うと香水の瓶をかざして見せた。

「…ほら。香水が泡立っているでしょう?それにガイの額、汗が滲んでいますもの。これだけ条件が揃っていたら、私にだってわかりますわ」

ガイは確かに、と言って肩をすくめた。

「…心配をかけてしまいましたのね。ごめんなさい」

「別に構わないさ。いつものことだからね」

「…ふふっ。それにしても…」

「…何だい?」

「香水も勿論嬉しいですけれど、一番の贈り物は貴方かもしれませんわね」

「俺?」

「貴方が来て下さった時の憔悴した顔…私、貴方のあんな顔初めて見ましてよ。それに貴方の方から抱きしめて下さるなんて…本当に嬉しかったですわ!」

「ちょ、それ…ナタリア起きてたのか!?」

「さぁ、どうですかしら♪」

ナタリアは悪戯っぽく、にっこり笑った。


(全く…このお姫様は俺を困らすのがうますぎる。)

赤くなってしまったガイは、自らの顔を隠すために手で覆ったのだった。

勿論、ガイのその様子をナタリアが楽しそうに見つめていたのは言うまでもない。



ちなみに、後日ジェイドの話はやはり嘘だった事が判明。怒りに震える青年がいたとかいなかったとか―――


fin.
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