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ハロウィン2010@(JA)
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【悪戯返し】

とある昼下がり。
今日は、メンバーの体調を考えて丸一日休暇にあてられていた。ただ、それは単に体調管理のためだけではない。
実は、今日は世間一般で謂うところのハロウィンというもので。だからこんな日くらいは、と引率者であるジェイドが気をきかせたという事情があったりする。
勿論それを知っているのは休暇を提案したジェイド本人のみで、他の人間は知るよしもないのだけれど。
(彼は良い事をする時に限って、妙に照れ臭くなってしまう困った大人なのだ)


さて、そのジェイド・カーティス大佐はというと。彼はひとり、有意義に時間を過ごそうと思って、宿屋の部屋で書物を読んでいた。ゆったりとしたソファに、優雅に長い脚を組んで腰掛けている。肩まである蜂蜜色した髪がさらりと流れて、いかにも絵になる。…が、現在、彼の優秀な頭に、書物の内容は流れ込んでいなかった。10分程前から、頁を捲る手が止まっている。


なぜなら、気付いてしまったからだ。自分で休暇を提案して置きながら今更という気もするのだが。
今日がハロウィンで、つまりはアニス辺りが訪ねてくるだろう事に、だ。(ちなみにお菓子類はアニスのために常備しているため慌てて準備する必要はない)
日頃憎からず(むしろ愛しく)思っている少女が来るとなると、少し、落ち着かない。彼女にかかれば、天下の死霊使いも形無し。無意識に扉の方へばかり視線がいってしまう。
…とそこで、ぱたぱたと軽快な足音と共に扉が開いた。

「たーいさ♪Trick or Treat!」

「来ると思っていましたよ、アニス」

ぴょこ、と効果音がつきそうな程軽やかに登場したアニスに、ジェイドは柔らかな微笑みを向けた。…が、そこで、ジェイドの表情が固まる。アニスが、にししっと悪戯な笑みを浮かべた。


「…その格好…何かの嫌がらせですか?」

「えへへ♪びっくりしました?何を隠そう、ブウサギの着ぐるみですよぅ!ちなみに、陛下曰く“可愛い方のジェイド”仕様です♪」


ジェイドは、やれやれと眉間を指で抑えた。妙に手の込んだ着ぐるみだと思ったら、己の君主が一枚噛んでいたのだ。
ため息をつくジェイドの顔を、アニスが覗き込んだ。

「大佐ー。アニスちゃん、Trick or treatって言ったんですけど?」

「…っと。これは失礼。貴女のあまりの格好…いえ可愛らしさに、私とした事が我を忘れていたようです♪」

「…今しっかり言い直しましたよね〜。あまりの格好ってどーゆー意味ですかあっ!……むぐ」

反論しかけたアニスの口に、ジェイドはひょい、と手際よくビスケットを放り込んだ。アニスはビスケットをくわえたままムゴムゴと口を動かしたが、上手く喋れるはずもなく自然と黙らざるを得なくなる。
アニスが黙ったところで、ジェイドが楽しそうに口を開いた。


「特に変な意味はありませんよ。ただ、貴女があんまりキテレツな格好をしてきたので少し驚いただけです。」

「もぐもぐ…ゴクン、キテレツってなんなんですかあっ!このアニスちゃんが大佐のために着てるんだから可愛いくらい言…むぐっ」

二枚目のビスケットがアニスの口に放り込まれた。再び、アニスは口を開けなくなる。

「私のために…ですか。ブウサギアニスの背後に、ハロウィンにかこつけて私で遊ぼうとする陛下の姿が見えるのは…気のせいでしょうかねぇ?」

「…ゴクン。気のせいですよぅ!少なくともこのアニスちゃん、大佐で遊ぼうなんて多分きっと考えてな…ふむっ」


アニスの口に、三枚目のビスケットが挟まれた。そう、放り込んだのではなく、挟んだのである。
訳の分からないアニスは、ビスケットをくわえたまま首をキョトン、と傾げた。
これはアニスがいつも金持ち相手に向ける計算された動作ではなく、時折ジェイドだけに向けられるアニス本来の仕種だ。勿論アニスは無意識なのだけれど、その動作の違いを知っているジェイドは楽しそうにほくそ笑んだ。

「それにしても…ねぇ、アニス?」

かつ、と軍靴が音を立てて一歩前に進み出た。

「そんな格好でこんなにお菓子ばかり食べていたら、本当にブウサギになっちゃいますよ?」


食わせてるのは誰だよ!と反論しようとしたアニスだが、あいにくくわえたビスケットのおかげで喋る事はかなわず。そして、勘の良いアニスは…いや、この男と過ごしたやや長い月日のせいだろうか…気付いてしまった。
目の前の男は、不敵に目を細めて、こちらを見つめている。迂闊にもドキリとしてしまった自分を、アニスは殴りつけたかった。聡い彼の事だ。紅潮したアニスの頬に、気付いているに違いない。こういう目をしている時の彼はいつにも増して油断ならないという事を知っているのに、アニスは一歩も動けないのだ!

「…ですから、そうなる前に私がビスケット頂きますね」

次の瞬間、急にジェイドの顔が近付き、アニスの顎をくいと捕らえた。アニスがぎゅっと目をつむった一瞬に、パキン、とジェイドの唇がビスケットを半分くわえて、折っていく。
アニスが恐る恐る目を開けると、目の前の佐官はにやりと笑ってみせた。

「私で遊ぼうなんて悪い子には、 悪戯です。これに懲りたら、もう陛下の策略には乗らない事ですね」


ジェイドはもう一度くすりと笑いを漏らすと、ぽんぽんとアニスの頭を撫でて、可笑しそうにご馳走様でした、とだけ言葉を残して部屋を退出した。





パタンと扉の閉まる音がしたのを確認して、アニスは扉の方を振り返る。そうして、へたへたとその場に座り込んだ。

「…うあー、どうしよ。もっかい陛下に作戦考えてもらおっかなあ?」


そしたら、どんな悪戯が返ってくるんだろう?
ちょっと、楽しみだったりして、ね。



fin.
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