short2
眠りの森の...(NG)
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そよ風が心地よい、午後。ゆっくり歩く俺の斜め前には、ナタリア。
旅の休息時間、散歩するといってきかないお姫様の護衛をしているのだ。ナタリアが強いのは知っているが、さすがに一人で送りだすわけにもいくまい。

「ガイ!ご覧になって。見事な大木でしてよ!」

久しぶりに自然と戯れる時間をとれたナタリアは、楽しそうにはしゃいでいる。ふと見れば、おっかかる形で大木に身体をゆだねて風を感じているようだった。



こうして自然の中を共に散歩している姿は、はたから見れば恋人同士にも見えるのだけれど。如何せん。彼女の心にはアイツがいる。俺は、不在の王子の代理に姫を護るしがない騎士でしかない。

「…姫と騎士、か」

「姫?」

「!」

言葉の響きは悪くないなあなんて考えていたら、ナタリアに聞き返された。どうやら、無意識に声にだしてしまったらしい。

「姫って…何か劇でもなさいますの?」

「…へ?」

てっきり、私がどうかしまして?な感じで返されると思っていたのだけれど。ナタリアは、今の話が自分の事だと気付いていないらしかった。

「まぁ!考えてみたら、なんだか素敵ではありませんこと?私、劇なんてした事ありませんもの。」

ナタリアは、目をキラキラさせて話しだした。城でただ劇を鑑賞する事しか経験のない彼女が演じる側に興味をもつのは、無理もない話かもしれない。

「…そう、だな。けど演じるなら、やっぱり君は姫君役が良いと思うよ?」

ナタリアはきっと町娘とかをやってみたいのだろうけれど、内から滲み出る気品のお陰でとても町娘には見えないだろうから。

「まぁ…それでは普段と変わりませんわ。私、料理人になりきってみたかったのですけれど…」

「……(汗)」

ガイはそれを聞かなかった事にした。ナタリアが料理人になんてなったら、もう……。
思い浮かんだ惨劇にガイが頭を悩ませていると、ふいをつくようにナタリアが笑って言った。

「私が姫役なら、私を護ってくれる騎士様はガイですわね。」

「!?」

ガイは、先程の自分の思考とナタリアの発言が同じ事に驚いた。それに加えて、ガイとしては騎士である事すらおこがましいかもと考えていたので、ナタリアにそう認識してもらえていたのが嬉しかった。



「…それにしても、姫役だとどんな…あら、思い出しましたわ!私、子供の頃からずっと“眠りの森の姫”に憧れていたのです!」

「…へぇー… って」

ちょっと待った!眠りの森のってアレだろう?助けにきた…騎士、が……で姫が目を覚ますって奴…。



「…ナタリア」

「なんですの?」

「…意味、わかって言ってるかい?」

「え?………………っ!///」

少しの沈黙のあと、ナタリアの顔がボっと赤くなった。

「ま、まぁ…!そうでしたわね…うっかりしていましたわ…」

「気付いてくれてよかったよ」





少しの沈黙のあと、ふいにナタリアがふふっと笑ってから口を開いた。

「…でも私は別に、相手が貴方なら構いませんでしたわよ?」

「…!?」


突如聞かされたナタリアの言葉に、ガイの頬が赤らむ。ガイはそれを隠すように、頭を掻きながら視線をそらした。そのガイに、ナタリアが一歩近づく。ガイは、視線をそらしているせいで気付いていない。

一瞬のうちに、柔らかな温もりがガイの頬を掠める。それがナタリアの唇だという事に気づくのに、ガイは数秒かかった。勿論、いつもの恐怖による悲鳴をあげる暇もなかった。

「まあ!大丈夫ではありませんの!恐怖症克服に一歩近づいたのではなくて?」


事態を把握できてないガイをよそに、ナタリアは優雅に微笑んだのだった。


(…これじゃあ姫と騎士の立場逆転じゃないか。情けないなあ、俺…)



Fin.
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