short2
言葉にはできないけれど(LT)
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「…ルーク!」


ルークが、はっと目を開ける。傍らで自分を覗き込んでいる少女を視界に捉えると、彼は肩で息をしながらその名前を呼んだ。

「…ティ、ア?」

「大丈夫?うなされていたわ」

ルークは我にかえると、息を整えてからゆっくり起き上がった。

「…ごめん、起こしちまったか。…皆は?」

「大丈夫よ。よく寝ているから」

「そっ…か」

今夜は、宿屋の個室が空いていなかったため全員で大部屋に眠っていたのだ。
夜半ティアが目覚めると、赤い髪の少年がうなされているのが見え、慌てて揺り起こした。

「眠れないのなら、少し外の空気を吸ってきたらどうかしら。付き合うわ」

「…そうだな、ありがとう」

二人は他の仲間を起こす事のないように、そっと部屋をあとにした。




カウンターに一言告げてから、宿屋をでる。外は空気が澄んでいて、七夕の季節だからか、空には無数の星が美しく瞬いていた。少し歩いてから、適当なところに腰を下ろす。


「…空気、冷たくて気持ちいいな」

「ええ。気分転換には調度良いわね」


――しばらく、沈黙が続いた。もっとも、特に言葉が必要なわけではなかったのだけれど。 二人そろって、黙ったまま空を見上げる。その姿勢のままに、ふいにルークが口を開いた。

「…生きる意味ってなんだろうって、考えてたんだ」

「…そう」

「…そんな事考えながら眠ったら、やたら嫌な夢…見ちまって、さ」

「…………」

ティアは、空を見上げたままだった。
少しして、黙っていたティアが口を開く。

「…生きる意味は、必ずしもなければならない訳ではないわ」

「……うん」

「でも……貴方が生きていた事で、私には大きな意味があったの」

「……え?」

ルークが目を見開く。それに合わせて、ティアがゆっくりとルークの方を見た。彼女の顔には、優しい微笑みが浮かべられている。ルークは、ふんわり笑うティアを美しいと思った。


「…もしもよ、もし私が、数十年後に自分の伝記を書くとしたら…私はきっとルークと出会ったところから書き始めると思うわ」

「…えっ…、あ、ありがとう…じゃなくて!どうしてだよ!リグレットとかヴァン師匠とか、ユリアシティの頃にも大事な事たくさん…!」

「…そうね」

ティアは綺麗にくすりと笑うと、それ以上何も言わなかった。再び、二人で空を見上げる。








ルーク
貴方にはまだ分からないかもしれないけれど…
人はね
人を愛する事を知った
その瞬間から
世界が180゜変わるのよ

私の世界を広げたのは
ルーク…貴方なの





こんな事恥ずかしくて口が裂けても言えないけれど、とティアは心の中で思った。
気を取り直して、ルークの方に顔を向ける。宿に帰る事を勧めるためだ。長く夜風に当たるのはよくないから…というのは建前。本当は、これ以上こうしていると目の前の彼へ想いを馳せすぎるから。



「…そろそろ、戻る?」


ティアの思惑とは裏腹に、ルークは頭を横に降る。


「…もう少し、いようぜ」

「…仕方ないわね」

「ありがと、ティア」


ティアの返答に、ルークは嬉しそうにはにかむ。つられて、ティアも微笑んだ。ルークと二人で過ごすのは久しぶりなわけで、なんだかんだ言いつつもこの時間は貴重な一時であったのだから嫌なわけがなかったのだ。






(もっとティアと二人で居たかったからなんて、恥ずかしくて言えねぇよなあ…)




お互いがお互いの事を考えて顔を赤らめていた事を、勿論二人は知らない。


Fin.
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