short2
母性本能(J+A)
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それは、とある夕方。
レプリカネビリムを倒した日だった。
いつもどおりの顔でデスクワークするジェイドは、ふと視線を下げる。
机を挟んだ向こう側には、敷かれた絨毯の上にて人形をいじる少女がいた。

――なんて人の心を読むのが上手い少女だろうか。





ネビリム先生を再び手にかけた。悲しくはなかった。ただ、虚しかった。負の感情が堂々巡りを始めそうになったその瞬間、まるでタイミングを見計らったかのようにアニスは現れた。

『たぁいさ!お暇ですかぁ?』

ぴょこんと現れた小さな影に、顔が緩んだのは否定できない。彼女は、私とひととおり世間話を交わすと、絨毯の上に座り込んだ。恐らく、私の仕事が終わるのを待っているに違いない。アニスがそこにいるだけで、気持ちが随分楽だった。

「アニス、仕事はしばらく終わりませんよ。暇なのではありませんか?」

私は、何を言っているのか。本当は、このまま彼女にここにいてほしい癖に。

平気なふりをしてはいても、今日の自分は大分滅入っている。その自覚はある。だからこそ、アニスにいてほしいと思っているのに。如何せん、自分の性格が恨めしい。こんなときまでいい大人のふりをしなくても良いのに、するのだ、私は。


「べっつに〜。だって、アニスちゃんがここにいたいからいるんですもん。それとも、お邪魔…ですかぁ?」

少しばかりの不安を漂わせて、大きな茶色の瞳が私を見上げた。居てもいいでしょ、と訴えているように見える。そんな風にしなくたって、私がアニスを邪魔だなんて思うはずないというのに。むしろ、ここに居てほしいとさえ思っていたのだから。先程のアニスの台詞にひどく安堵した自分がいた事も、事実であるし。
私は、精一杯の親しみを持たせた笑顔を、アニスに向けた。

「邪魔だなんて思いませんよ。ただ、貴女を一人待たせておくのを心苦しいと感じただけです」

「はぅあ!大佐が心苦しいだなんて!何か悪いものでも食べたんじゃないですか!?」

「アニス、貴女は私を一体どんな人間だと思っているんですか」

「…感情欠如人間?」

「アニース♪」

「…かと思ってたんですけどぉ。最近、ちょっと違うなって気づいちゃいまして」

「…というと?」

私が聞き返すと、アニスは顎に手を添えてう〜んと考えるそぶりをした。





「……………さぁ?」


適当なアニスの答えに、がくっ、と力が抜けた。

「…さぁ、って…」

「だって本当にわかんないんですもん。でもなんて言うか…」

「…なんて言うか?」

「……秘密ですぅ♪」

「…アニスι…まぁ、いいでしょう」

「えへへ…」


(…その無表情の裏にどれだけの感情が渦巻いているかと思うと、何となく母性本能擽られるなぁ…って思っただけなんだけど…面と向かってそんな事大佐に言えないもんね)




(…もしかして、彼女は気づいているのだろうか?私が精神的に参っている事に。…だからこそ、ここに居てくれている?)





「…ありがとうございます、アニス」

「…ふぇ?なんですか?」

「いいんです。とにかく、ありがとう」

「ふぅん。変な大佐」




穏やかに微笑む彼にこっそり“どういたしまして”と呟いた事は、彼女だけの、秘密。


fin.
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