1/1ページ目 レプリカネビリムを倒した日だった。 いつもどおりの顔でデスクワークするジェイドは、ふと視線を下げる。 机を挟んだ向こう側には、敷かれた絨毯の上にて人形をいじる少女がいた。 ――なんて人の心を読むのが上手い少女だろうか。 ネビリム先生を再び手にかけた。悲しくはなかった。ただ、虚しかった。負の感情が堂々巡りを始めそうになったその瞬間、まるでタイミングを見計らったかのようにアニスは現れた。 『たぁいさ!お暇ですかぁ?』 ぴょこんと現れた小さな影に、顔が緩んだのは否定できない。彼女は、私とひととおり世間話を交わすと、絨毯の上に座り込んだ。恐らく、私の仕事が終わるのを待っているに違いない。アニスがそこにいるだけで、気持ちが随分楽だった。 「アニス、仕事はしばらく終わりませんよ。暇なのではありませんか?」 私は、何を言っているのか。本当は、このまま彼女にここにいてほしい癖に。 平気なふりをしてはいても、今日の自分は大分滅入っている。その自覚はある。だからこそ、アニスにいてほしいと思っているのに。如何せん、自分の性格が恨めしい。こんなときまでいい大人のふりをしなくても良いのに、するのだ、私は。 「べっつに〜。だって、アニスちゃんがここにいたいからいるんですもん。それとも、お邪魔…ですかぁ?」 少しばかりの不安を漂わせて、大きな茶色の瞳が私を見上げた。居てもいいでしょ、と訴えているように見える。そんな風にしなくたって、私がアニスを邪魔だなんて思うはずないというのに。むしろ、ここに居てほしいとさえ思っていたのだから。先程のアニスの台詞にひどく安堵した自分がいた事も、事実であるし。 私は、精一杯の親しみを持たせた笑顔を、アニスに向けた。 「邪魔だなんて思いませんよ。ただ、貴女を一人待たせておくのを心苦しいと感じただけです」 「はぅあ!大佐が心苦しいだなんて!何か悪いものでも食べたんじゃないですか!?」 「アニス、貴女は私を一体どんな人間だと思っているんですか」 「…感情欠如人間?」 「アニース♪」 「…かと思ってたんですけどぉ。最近、ちょっと違うなって気づいちゃいまして」 「…というと?」 私が聞き返すと、アニスは顎に手を添えてう〜んと考えるそぶりをした。 「……………さぁ?」 適当なアニスの答えに、がくっ、と力が抜けた。 「…さぁ、って…」 「だって本当にわかんないんですもん。でもなんて言うか…」 「…なんて言うか?」 「……秘密ですぅ♪」 「…アニスι…まぁ、いいでしょう」 「えへへ…」 (…その無表情の裏にどれだけの感情が渦巻いているかと思うと、何となく母性本能擽られるなぁ…って思っただけなんだけど…面と向かってそんな事大佐に言えないもんね) (…もしかして、彼女は気づいているのだろうか?私が精神的に参っている事に。…だからこそ、ここに居てくれている?) 「…ありがとうございます、アニス」 「…ふぇ?なんですか?」 「いいんです。とにかく、ありがとう」 「ふぅん。変な大佐」 穏やかに微笑む彼にこっそり“どういたしまして”と呟いた事は、彼女だけの、秘密。 fin. <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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