short2
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「…シンクっ」

「………」

「シンク…待って、です」

「……………」

「シンク…」

「……うるさいんだけど!静かにさっさと歩けないわけ?」

「…足、かじかんで…速く歩けない、です」



シンクは、はぁ、とため息をつきながらうっとおしそうにアリエッタを見た。




二人は、いわずもがな任務中である……が、別にロニール雪山等にいるわけではない。普段どおり、ダアトの教団本部にいる。ただ、今の季節は一応冬にあたり、大分肌寒い。幼年時代、恐らくライガの毛皮と体温に包まれてアリエッタが越えただろう冬は、石造りの建物の地下で過ごすには些か彼女には酷だった。
シンクと一緒に行動する事になっているのだが、足がかじかんで上手く歩けない。もともと歩くのが速いシンクについていくのは中々に大変だった。だからこそアリエッタは先程からシンクに声をかけているのだが、如何せん。苛々しているシンクがそう簡単に応えてくれるわけもない。といっても苛々の原因はとろとろ歩くアリエッタなのだが。

そしてやっと応えてくれたと思いきや、アリエッタは彼に飽きれ顔で睨まれた。
シンクが怒っていると解釈したアリエッタが泣き出しそうになった、その時。



ふわん…


アリエッタの肩を、柔らかい温もりが覆った。
涙目のまま視線を肩にやれば、そこにあったのはシンクが着ていた上着。

「それ貸してやるから、泣くのやめてくれる?アンタ泣かすと、後で僕がリグレットにどやされるんだから。勘弁してよね」


「あ………」

アリエッタがお礼を言おうと顔を上げれば、ふい、と顔を背けたシンクがいた。

仮面のせいで表情はわからないけれど、きっと怒ってはいない。アリエッタはそう確信した。怒られないとわかれば、怖くない。瞳からこぼれそうだった涙は自然と引っ込み、アリエッタの顔には、可愛らしい、柔らかい表情が浮かぶ。

「シンク、シンクっ」

「…何」


アリエッタが珍しく、楽しそうに声を掛けてくるためにいつものように無視できなかったシンクは、不用意にぱっと振り向いた。そこには―――



「ありがと、ですっ、シンク!」



「…………!」



少し頬を紅潮させて、花が開くように笑う、彼女がいた。

その、ほんの一瞬、アリエッタの表情に茫然と見入っていたシンクは、はっと我にかえると再び顔を背けた。

「…ほら!無駄口叩いてないで、さっさと行くよ!」

「…はい、です!」






(………アイツがボクの前であんな楽しそうに笑ったの…初めてじゃない?ああしてりゃ、ちょっとは可愛げがある…の、に…………)




歩きながら仮面の下でくつくつと笑っていたシンクが、ふいに口をとざして立ち止まる。アリエッタが、不思議そうに彼を見上げた。

「…シンク?」







―――あぁ、そっか。

当たり前だ。




アイツを泣かせてたのは、
僕なんだからさあ…





「どうしたですか、シンク?」


シンクはゆっくり振り返ると、仮面に隠れていない口元をできるだけ柔らかく微笑ませた。


「…何でもないよ……ごめんね、アリエッタ」

「…?」


恐らくアリエッタが意味を理解していないだろう謝罪を述べると、シンクは前に向き直る。


それから目的の部屋に着くまで、シンクが振り返る事はなかった。



fin.
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