short2
ゆめうつつ(GN)
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俺は、
あの人を探してる
会いたくて仕方がないんだ。

もう、顔も思い出せない
確かに頭に焼き付いてる
はずなのに

記憶と結び付かない、
ただ、それだけ。

強くて優しい、
俺の大事な―――









“……イ、…なさい!”


だ、れ… ?


“…ガイ!……起き……のです!”


俺を呼ぶのは、誰…



俺は、うっすらと
瞼を開いた。
朝日が目に染みる。
まだ焦点が合わない。


俺を覗き込んでるのは、
誰なんだ… ?
もしかして、
俺が探してるあの人
だろうか。




“起きなさい、ガイ…!”




目がまだ霞んでいて
顔がよく見えない。

視界に映るのは、
光り輝く金の髪。




俺と… 同じ…

同じ………!?










「…っ!…姉上!」


反射的に飛び起きた俺は、“姉上”に抱き着いた。
細い首に腕を回して、ぎゅうぎゅうに抱きしめる。自分がもう20歳を越えている事なんて頭になかった。ただ、5歳の頃の本能のままに。


脳が上手く働かない。
もうわけがわからない。
ただ腕に力を込めた。

強くて優しい、
俺の大事な―――



「…姉上っ……」









どれくらいそうしていたのだろう。
ほう、と息をはく。
だんだん覚醒してきた。

ぬくもりが、心地好い。
俺は何をしてたんだっけ。
ここはどこだろう。
確か、シェリダン………!?



ちょっと待て!
俺の腕の中にいるのは、
誰だ……?

だって姉上の訳がない!



俺の頭は、
完全に覚醒したらしい。
けれど、怖くて動く事が
できない。
俺は何をやらかした…?



「落ち着きまして?」


「え」


耳元から聞こえてきたのは、聞き覚えのある、柔らかな、そして愛しい声。


「ナ、ナタリア!」


抱き着いていたのは、旅の仲間で恋人でもある、ナタリアだったのだ。


顔面に熱が集中するのがわかる。とんでもないところを見られてしまった。まさかまさか、姉上と間違えて抱き着くだなんて。
しかし、ナタリアであった事を喜ぶべきだろうか。恋人でない女性に抱き着いていたら、変態もいいところだ。
とりあえず、ナタリアからゆっくり離れた。
背けていた顔を彼女に向けると、視界に入るのは穏やかな微笑み。けど、彼女の顔に赤みがさしているように見えるのは、俺の見間違いじゃない。

「…す、すまない」


動揺しきった俺の声に、ナタリアはくすくすと笑った。

「いいえ、構いませんわ。ガイのお姉様の気分も味わえましたし」

「…っ///」


「ガイは本当に…大好きですのね、マリィベル様のこと」

「…ああ、そうみたいだ。まぁ、自慢の姉だからね」

「…少し、羨ましいですわね。ガイにそこまで想われているなんて」

「…ナタリア?」

「だって私…貴方にあんな風にしてもらった事、ありませんわ」

「あんな風って…さっきの、アレ?」

「…ええ、そうです!」


些か拗ねたような口ぶりのナタリアに、俺はうっかりふっと吹き出してしまった。
確かに、恐怖症が治ってからも先程のようにぎゅうぎゅうに抱き締めたりはした事がなかったが。ナタリアの言いようでは、まるで俺がナタリアより姉上を好きみたいじゃないか。そんな事、あるはずないってのに。


俺が可笑しそうにくつくつと笑っていると、ナタリアが抗議の声を上げた。


「ひどいですわガイ!笑い事じゃありませんのよ!」

「いや、決して馬鹿にしたわけじゃないんだよ。ただ…ちょっとね」

「何ですの!?はっきり仰って!」

必死に喚くナタリアの頭を、ぽんぽんと撫でた。それに反応してかナタリアが俺を見上げる。視線を絡めたまま、俺は言葉を続けた。



「…君は分かってないな」

「何をですの?」

きょとんとした様子のナタリアに、密かに苦笑する。

俺が一番“大好き”なのは姉上だけど、この世で“愛してる”のは、唯一、ナタリアだけだ。
それくらい見ればわかりそうなものだけど、相手はあのナタリアなのだから仕方ない。

俺は不思議そうに見上げるナタリアの頬に手を添えると、彼女の潤んだ瞳の目尻になるだけ優しく唇を落とした。


「…俺がどれだけ君を好きかってことさ」


「!」

俺は、質問の返答で赤くなったナタリアに追い打ちをかけるように耳元で囁いた。







“愛してるよ

強くて優しい、
俺の大事なお姫様…”


驚きで目をぱちくりさせているナタリアを、俺はぎゅうぎゅうに抱きすくめた。



fin.
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