short2
午睡(JA)
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(…なんだかなぁ…)

ゆったりとしたソファに腰掛けているアニスは、身じろぎしないようにそっと溜息をついた。身体を動かすことは、憚られたから。




前触れなくアニスが彼の執務室を訪れると、書類に追われて机に向かっている姿が目に入った。彼はちらりとこちらに視線をやって、すみません、とだけ言うと、また机に向かった。

こういう事は、よくある。彼が将軍職に昇進してからは尚更だった。
仕事の終わるめどがつかない時は、帰るように言われるか、よそで時間をつぶすように言われる。その間、ものすごい速さで仕事を終わらせている事は、彼の師団の人からこっそり教えてもらった。ただ見栄っ張りなこの彼は、私がいる目の前で急いで筆を滑らせているのを見られたくないらしかった。

今回は、謝罪だけで特に他には何も言われていない。
つまりそれは、もう少しで終わるから待っていろ、ということで。
彼の集中を削がないようにそろりとソファへ足を運ぶと、浅めに腰掛けて仕事机の方に目を向けた。
旅をしていた頃となんら変わらない、相変わらず若作りな姿がそこにあって、無意識に自分の髪に触れていた。
あの頃と比べて大分伸びた黒髪、それに身長。
今ならきっと隣に並んでいても違和感はない。そう思いたかった。もっとも、机に向かっているこの男はそんな事には無頓着で、どうして周りの目を気にする必要があるんですか、なんて言われた事もある。
それはそれで、いいような気もした。


そんな事をぼうっと考えていると、いつのまにか夢の中。

ふわふわ、ぽかぽか。

感覚ない世界をさ迷って、ふいに肩が重くなって。
現実に引き戻された。


寝起きの倦怠感を振り切って肩に視線をやると、金茶の髪が目に入ったのだ。


「え」

ぼっ、と頬に熱が集まるのが分かった。

(ちょ、近いっ……!)

そう。隣にいつのまにか、私の肩に頭をもたれて眠る、ジェイド・カーティス将軍がいたのだ。

突然の至近距離攻撃は、なかなか心臓に悪い。なんにせよ、この男、無駄に顔が綺麗すぎて。それをこんな距離で突き付けられたら、くらくらするのも当然だと思う。

(…相変わらず、睫毛長いなあ)

(…しかもやっぱ肌綺麗だし。白いし)

(てゆーか明らか私より美人だよね。知ってたけど。…やっぱ悔しい)

(なのに自分の容姿に無頓着とか…どんだけ?厭味かっちゅーの)

心の中で外見に似合わない悪態ををつくと、悪戯とばかりに、ちょん、と彼の滑らかな頬をつついた。

…起きない。

(…熟睡、してるの…?)

アニスは珍しいものを見るような目で、将軍と呼ばれる男の顔を覗きみた。
実際、珍しいのだ。普段から隙を見せないこの軍人は、就寝時も気を抜いておらず、 確か旅の間は少しの物音でも目を覚ましていたと記憶している。


(…疲れてるんだろうな)

そう思いつつ、子供のように寝入る彼を見ていると、自分よりずっと大人の彼に少しは追いつけたようで、どこか擽ったい気分になる。



アニスは自分の肩で無防備に眠る男を一瞥すると、起こさないように金茶の頭をそっと自分の膝に下ろした。

「アニスちゃん、出血大サービスです。…ゆっくり休んで、将軍」

秘め事のように呟きながら、光に照らされて輝く金茶を撫でる。


安らかな寝息と街の水のせせらぎだけが、静かに部屋を満たした。

fin.
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