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プラマイプラス(G→NAs+α)
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「…っきゃあ!」

「…え?…うわ!」





「「!」」


その瞬間、確かに唇が重なった。





* * *


ベルケンドの街路――ジェイドがスピノザに用があるからと立ち寄った――を一行が歩いている時だった。一行の前方に、赤毛の片割れ、アッシュの後ろ姿が現れる。いち早く彼を見つけたナタリアが駆け寄ろうとした。もっとも、こちらに背を向けて立っていた彼は気づいていないようだったが。
その時。天然の為せる技なのか、何故かなにもないところでナタリアが躓いてしまった。彼女が倒れ込む先には、金髪碧眼の伯爵。そして勿論その彼は女性恐怖症なのであって、(最近は大分改善されているようだが)自分の方へ倒れてくる女性を前に反射的に一歩後ずさってしまった。不自然な体勢でナタリアを受け止めたガイは、当然バランスを崩す。よって当然のごとく二人は揃って地面に引きずり込まれたのだ。

そうして、話は冒頭に戻る。



「あ…あ、あの…ごめんなさい、わ、わたくし…」

顔を上げたナタリアは、口元を両手で抑えつつ、真っ赤な顔で目の前の伯爵に謝罪する。瞳を潤ませて恥ずかしそうにしている彼女を可愛いと思ってしまったのは、ガイだけの秘密だ。

「いや、こちらこそ悪かった…で、ナタリア…とりあえず、 お、降りてもらえないかい?」

「え?」

ふと自分の足元に目をやると、ガイに跨がったままの自分。きゃあ、と可愛らしい悲鳴を上げて、ナタリアは飛びのいた。


「うわー。なんか漫画みたいだよねえ」
「なんつーか…ベタだな」
「そ、そう、ね…」
「いやぁ、青春ですね〜」

外野の声に苦笑しつつ、ガイは土埃を払いながら立ち上がる。ナタリアも、それに倣った。

と、その時。

「どうしたんだナタリアァァ!」

ナタリアの悲鳴を聞き付けたアッシュが、走り込んでくる。…が、真っ赤なナタリアの顔が彼の視界に入る前に、両腕をがっしりと拘束されてしまう。左右には、ルーク、そしてトクナガにぶら下がったアニスだ。目の前には、彼の視界を遮るようにティアが立っている。

「な、何しやがる!」
「わりぃ、アッシュ!ちょっとあっち行こう!」
「世の中にはねぇ、知らない方が幸せな事もあるの!」
「この方が貴方のためよ、アッシュ」
「離せええぇ!ナタリアァァ…!」

ずるずると引きずられていくアッシュを横目に、ガイは申し訳なそうに俯いているナタリアへ向き合う。

「その…ナタリア、今のは事故なんだから、さ。お互い気にしない事にしよう」

「あ、貴方がそれでよろしいのでしたら…私に異存はありませんわ。でも、本当にごめんなさい」

「気にしないでいいって。それより、アッシュを迎えに行ってやったらどうだい?」

「ええ、そう致しますわ。わたくし、先に行ってますわね。」

アニス達が消えていった方向へ駆けていくナタリアの後ろ姿を見送りながら、ガイは、ほぅ、と安堵のこもった息を吐く。今の自分が自虐的な微笑みを浮かべているだろう事を自覚しながら。そこへ、背後に嫌な気配。

「“事故”、ですか。うまい事言ったものですね」

「旦那…いつから居たんだよ」

「最初からいましたが?」

振り返るとそこには、嫌な笑みをたたえた死霊使い。全て見透かされているとわかって、ガイは諦めの溜息をついた。


「…やっぱ旦那にはバレてたか」

「ええ、勿論。力の方向から考えて、貴方の頭があの位置に落ちるのはおかしいですから。…意図的に向きを変えない限りは、ね」

「言っておくがナタリアが倒れてきたのは偶然だぜ?ただ、あの一瞬…顔をずらせばどんな結果になるかわかっていて、実行したのは確かだけど。………その、魔がさしたんだ」

「本音がでた、の間違いでは?」

「…うっ。…相変わらずはっきり言うよな 」

「正直なものですから♪」


「…旦那、この事は…」

「まぁ、見なかった事にして差し上げますよ。貸しひとつ、という事で。」


くすり、とからかうような笑みを浮かべてから颯爽と目の前を通り過ぎる軍人を見送りながら、ガイは、くしゃり、と金の髪をかきあげる。はあ、と溜息と共にしゃがみ込んだ。


「よりによって旦那に借りを作っちまうとは…」


(…でもまぁ、それと引き換えても余りある収穫だからな)



「プラマイプラス…ってとこか?」

fin.
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