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スコッチ・ウィスキー(JA)
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「主任って可愛くなーい」

「はあ?」

帰宅すると、合鍵で侵入したらしい年下の恋人がグラスにそそいだウィスキーを片手にソファで寛いでいた。出迎えの挨拶もそこそこに浴びせられた台詞が、先ほどのソレである。

「…四十過ぎの年寄りを捕まえていったい何を言い出すんです。」

「だってー。ぶーぶー。」

ちょっとくらい気にしてくれてもいいのにい、とぶつくさ言って、彼女はグラスを煽った。
彼女がいっているのは、昨日の夜の話だ。彼女が昨日同期の男と二人で食事しているところに、私が通りかかった件のこと。実際それは夕食を食べながら今回のプロジェクトの話を詰めていただけで疾しいことは何もないことをお互いに知っている。けれど、彼女としてはもう少し私に気にしてほしいらしい。まったく、ひとの気も知らないで勝手なことをいってくれる。

「四十過ぎの男が可愛かったら逆に気持ち悪いと思いますがねえ」

「そうだけど、そういうんじゃなくてえー。ううー」

「可愛くないのは貴女の方じゃありませんか?」

「む!私のどこが可愛くないっていうんですかあ!」

すでにほろ酔い状態なのか、彼女はいつも以上に舌足らずな口調で上気した頬を膨らませる。

「可愛くないのは主任だもん。わたしじゃないもん。」

私はきつく締められたネクタイを緩めながら、ゆっくりと彼女に近づく。彼女は、潤んだ瞳でもって私の動きを目で追ってくる。身体をかがめて、彼女と目を合わせてみた。

「妬いてほしいと、素直に言ってはいかがですか。自分の意見をはっきり言うのは社会人の基本ですよ、アニース?」

くすくすと笑うと、ううと顔をゆがませてアニスはそっぽを向いた。

「もーやだ、このオッサン可愛くないっ」

「おやおや、上司をオッサン呼ばわりするのは頂けませんねえ?」


そう言いながら彼女のグラスをやんわり取り上げて、その掌に唇を押し付ける。ひんやりとした冷たさが、私の劣情をより鮮明にさせる。

「くだらないことを言ってる暇があったら、契約のひとつでもとってきたらどうです。」

「主任にとってはそうでも、私はそうじゃないんです!主任ってばいっつも涼しい顔しちゃってさ。私ばっかり好きみたいなんだもん。主任ってば、なんにもわかってない!」

本当に、くだらないことばかり並べてくれる。彼女ばかり?まさか、その逆だ。年若い恋人の回りは、若い男であふれている。彼女がいつかそちらを選ぶのではと、怯えているのは私の方だ。いつだって、どこかに彼女を隠してしまえたらと半ば犯罪くさいことを頭のどこかで考えている。私がどれだけ心を焦がしているか、彼女はまったく理解していない。

「…わかっていないのは貴女の方だ。」

「主任?わ、ちょっ…」

彼女の首に顔を埋めて、柔らかな皮膚に吸い付く。ぴくと彼女の身体が揺れるのを感じて、ひそかにほくそ笑む。

「教え差し上げますよ、私がどれだけ貴女に焦がれているか。一晩かけてじっくりとね。」

にっこりと微笑めば、彼女の表情がひきつる。今更あわてても遅い。逃がすわけがない。

「いや、アニスちゃん、遠慮しときます」

「妬いてほしかったのでしょう?顔にでないせいか貴女に私の想いがつたわっていないことが判明しましたので、教えてあげようというのですよ」

ね?と笑顔を向けながら、彼女の手首をやんわり捕まえる。捕食準備、完了。

「身体にきっちり刻み込んであげますよ、アニス?」

長い夜の、始まり。





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