short2
night mare(JA)
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私は、宿屋のロビーにあるソファでうたた寝をしていたらしい。はっと目を覚ます。

夢を見た。
しかも、ひどい悪夢を。

柄にもなく不安になり、私は反射的にロビーを飛び出した。目指す場所は決まっていた。
私はひとつの扉をノックすると、返事がくる前に扉を開けた。ばたん、と妙に乱暴な音をたててしまったようだが、私の耳には入って来なかった。

ふわふわ揺れるツインテールを視界に捉え、心底安心した。密かにほうっと息を漏らすと、私はアニスの腕を掴んで引っ張りだした。触れた腕が暖かい事に、再び安心する。でも、まだ足りない。いなくなるかもしれない。
初めて感じた夢への恐怖に見て見ぬ振りが出来るほど私は強くなかったらしい。アニスを自分の部屋へ連れガイとルークを追い出すと、アニスを後ろから力強く抱きしめた。アニスは戸惑いからか多少抵抗したが、それを許す私ではない。より強く抱きしめると、アニスは観念したらしかった。柔らかな温もりに、安堵する。やっと、落ち着いてきた。

冷静になって、ふいに先程の悪夢を思い出す。
自分が殺してきた人間達の夢だった。
『人殺しメ』『恐ロシイ』『ネクロマンサー』『オ前ナド死ンデシマエ』『貴様ガ憎イ』『殺シテヤル!』

最初はいつもの夢と同じ、罵声に怒号。こんなのは、どうでもよかった。聞き慣れている言葉。気にもならない。だが、その後。奴らはいつもと違う行動をとった。
奴らは私の目の前で、あろうことかアニスに襲い掛かった!彼女の身体から悲鳴と共に鮮血が飛び散る。助けなければと思うのに、手足も口もびくともしなかった。私は、ただ見ている事しかできなかった。
ふいに背景が歪む。
混沌の中で、私は動かなくなったアニスを抱きかかえて叫び続けた。



「…いさ!いつまでこうしてるつもりですかぁ!」

あの時目が覚めたのと同じタイミングで、急にアニスの声が聞こえた。聞き慣れた、妙に鼻にかかった甘ったるい、可愛らしい声。声がするのは、生きているからだ。

「…大佐!聞いてるんで…す、か…」

言葉が途切れた事を不思議に思い、振り向いたアニスの顔を覗き込めば、目を丸くしてこちらを見ている。私は、そんなに情けない顔をしていたのだろうか。
とにかく、返事をするのが先か。

「…大佐?」

「…すみません。突然連れて来られてこれでは、貴女が困惑するのは当然ですね…。ですが…もう少し、このままでいてはもらえませんか」

「…どうか、したんですか?」

思っていた事を口にすれば、少女の素朴な質問で返された。私は、何でもありません…と言いかけてやめた。なぜだかどうしても、アニスに問うて確かめたかった。以前の私なら、心のうちを他人に話す事など決してなかったのに。私を変えた事物には、間違いなくこの少女が一枚噛んでいる。私は、自らの額をアニスの肩につけるとゆっくりと口を開いた。

「貴女は今…いますよね、確かにここに。…私のこの、腕の中に。」

アニスの存在を確かめるように、腕に力をこめる。
少しして、その抱擁に応えるように小さな手が私の手に添えられた。きっとこの手が、アニスの答え。

「…勿論です!アニスちゃんはずーっと大佐の側にいますよぅ!」

続けられた言葉に、心から安心した。

アニスは、ここにいる。

視線を上げれば、愛しく眩しい彼女の笑顔がそこにあった。

「…ありがとうございます、アニス」



私は心からの感謝と敬意と愛しさを込めて、彼女の唇にそっとキスを落とした。

fin.
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