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思惑の行方(P+JA)
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大佐と喧嘩した。
もうかれこれ3日、口を聞いてない。









「…それでなんで俺んとこくるんだ、アニスちゃん?」

「だって陛下以外に相談できる相手いないんですもんー。」

「いるだろう、仲間達が」

「ナタリアに話したら大ごとになるだろうし、ガイは逃げるし…だめだめですよぅ」

あとの二人は恋愛にうとすぎて論外、なのだろう。アニスは、はぁーっと大きくため息を着くとピオニーに向き直った。

「陛下、大佐は…あたしの事なんてどうでもいいんでしょうか…?もう3日も口聞いてないのに、平然としてるんですよぉ?」

アニスが、どこか寂しそうに視線を明後日の方向へ向けた。

ジェイドとアニスは、二人とも頑固な方だ。一度すれ違うと、なかなか素直になれない。仲直りしたいとお互いに思っているにも関わらず、二人して足踏み状態になってしまうのだ。


「あいつは、感情表現が下手だからな。けど、ちゃんとアニスちゃんの事思ってるはずだぞ?この3日間のあいつの焦燥ぶりは、見てて実に面白かった」

「焦燥?大佐が?」

「おー。昨日なんか会議の時、俺がダアトって口にしただけで床にばさばさーっと書類ばらまかしてな。」

「…信じられない…あの大佐が」

「それに加えてこの3日間、開かない扉を見つめてはため息つきやがってな。アニスちゃんが来てくれるの期待してやがったんだ。馬鹿だよなー、会いたいなら自分から行きゃいいのに、あの頑固者が」

「会いたがってた…大佐が?」

「ああ。なんだかんだ言って結局、あいつはアニスちゃんを傍に置いときたくてしょうがないんだ」

「嘘………」

「嘘じゃねえさ。…しっかし、遅いな。アスランの奴、何やってんだ」

「え、誰かお待ちなんですかぁ?」

「ん?いやなに、ちょいと嵐が上陸する予定なんだ。とびっきりの暴風雨のやつな」

「窓の外は晴れてるみたいだけど…」

ピオニーの不可思議な発言にアニスが首を傾げていると、急にばたばたと足音が聞こえてきた。この謁見の間にどんどん近づいてくる。

「…そらきた」

ピオニーが、すっと目を細めた。…その時。




「サンダーブレード!」


「…げっ!ぎゃあぁっ!!」


扉が開いた瞬間、ピオニーが焦げた。

「陛下!?…って、た…大佐!?どうして…」

そう。入ってきたのは、ジェイドだ。ピオニーのところにはジェイドにばれないように来たはずのアニスの頭は、疑問符でいっぱいだ。

「アニス、無事ですか。あの愚帝には、何もされてないでしょうね?」

「ちょ、大佐何の事…」

「何の事、じゃありませんよ。フリングス将軍から連絡をもらって、急いで貴女を助けにきたんです。」

「助けるって…だ、誰から?」

アニスは辺りを見渡したが、特に不審な様子はない。…いや。普通に考えれば、謁見の間で皇帝が焦げている図は充分不審なのだが、最早アニスにとっては日常茶飯事であるため気にはならないのだ。

「どこを向いてるんですアニス。決まっているでしょう、あそこに倒れている馬鹿ですよ。」

そう言って、ジェイドはアニスの肩を引き寄せた。彼の視線の先には、倒れたピオニー。そのピオニーが、ふいにむくりと起き上がった。

「おいジェイド。謁見の間に入ってくるなり譜術おとすなんて、礼儀がなっていないぞ」

「貴方にだけは言われたくありませんね。人の物に手をだしてはならないと、子供の時に習いませんでしたか?」

「ち、ちょっと大佐、何を勘違いしてるんですかぁ?」

アニスの可愛らしい声が止めに入るが、頭に血が上っているジェイドには聞こえていない。そこに、ふっと笑ったピオニーが、口を挟んだ。

「…安心しろ。何もしちゃいねえさ。俺はただ、急いでジェイドを呼んでくるようにアスランに頼んだだけだ。そのためにアスランが何を言ったかは、俺の知った事じゃねえ。」

「…本当でしょうね?」

ピオニーの言葉を信じかねて傍らのアニスに視線を移せば、本当だよと柔らかく微笑まれたので、ジェイドはそれを信じる事にした。

「…それで?何のためにこんな事を。」

ピオニーは、しっかりアニスの肩を抱き寄せているジェイドを見てため息をついた。

「仲直りのお膳立てしてやったんだ。感謝しろよ」

「それはそれは…貴方にしては珍しく気の利いた事を。」

「もぅ!大佐ってばそんな言い方したらダメですよぅ!…えへ、ありがとうございまぁす♪」

これで、人騒がせな痴話喧嘩は一見落着か。





…とそこに、ピオニーが思い付いたように口を開いた。

「…そういや、アスランはお前に何て言ったんだ?」

「フリングス将軍ですか?“陛下がアニス殿を押し倒していましたよ、よろしいのですか?”と言ってましたが。」



「…あの野郎」

ピオニーは、雷を受ける羽目になった原因を密かに怨んだのだった。



――将軍の過言が、日頃仕事を怠ける皇帝へのささやかな仕返しだった事を、彼等は知らない――。

fin.
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