1/1ページ目 帝都グランコクマの端にあるひとけのない噴水の前に、ジェイドは立っていた。久しぶりに、アニスと会う事になっているのだ。勿論、仕事半分私事半分といった感じだが。 気温の高さに、ジェイドは服の襟を緩める。旅の間や仕事中は人目もあったからきちんと着こなしていたが、今現在この場に人目はない。これから来るのも慣れ親しんだアニスなのであるから、特に問題もないだろう。 そんな事を考えていると、遠くにピンクの教団服が見えた。きょろきょろしている所を見ると、ジェイドを探しているのだろう。 「アニース、ここですよ」 遠くにも聞こえるよう、少し声を張り上げた。すぐにアニスは気付き、ぱぁっと笑顔を見せる。そのまま、ジェイドの方に駆け出してきた。 「…おやおや、元気ですねぇ」 若さですか、などと呟いていると、もうすぐ側までアニスが来ていた。全力疾走でしかもスピードを緩める気配がないところを見ると、このまま飛び付いてくる気らしい。ジェイドは、やれやれと息をつくと、受け止めるべく腕を開いた。 アニスひとりなら、受け止められる自信はある。死霊使いの名は、伊達ではない。そんなヤワな身体ではないのだ。 「大佐ーっ!」 「アニース、走ると転びますよー?」 どすん、という音ともに、アニスが抱き着いてくる……はずだったのだが。 久しぶりの逢瀬にアニスの気が高ぶったせいで、それに反応してか抱き着いてくる瞬間、なんとトクナガが巨大化したのだ。 そう、モンスターを平気で投げ飛ばすようなトクナガの重量は相当なもので――― 「…………ッッ!」 バシャーンッ! 当然の事ながら、後ろに倒れ込んだ。背後には、噴水。水しぶきに思わず閉じた目をアニスが恐る恐る開くと、そこにはびしょ濡れになって水の中に尻餅をついているジェイドの姿があった。しかも、事態の張本人であるはずのアニスは、トクナガの上に乗り上げているため水に浸からずに済んでいる。 「…はぅあ!ごめんなさい大佐!…大丈夫ですか?」 アニスの声に、ジェイドがアニスを見上げる。その瞳に、いつもの譜業眼鏡はつけられていない。恐らくは水にさらわれたのだろう。真っ直ぐに向けられる赤い瞳が、ふいにふっと細められた。 「…全く。死霊使いを噴水にたたき落とすなんて、世界広しと言えども陛下と貴女ぐらいですよ、アニス」 「ごめんなさいー」 「その可愛い表情に免じて許してあげたいのは山々なんですが…アニース」 「…なっなんですかぁ?」 一瞬、アニスが目を逸らしたのを、ジェイドは見逃さなかった。 「…これ、計画的犯行でしょう?」 「…っ!た、 大佐ってば嫌ですぅー!アニスちゃんはそんな事しませんよぉ〜」 「いいえ。天才的な人形使いの能力をもつ貴女が、高揚のせいでトクナガを制御し損なうなんて有り得ませんよ。さぁ、白状しなさい。」 「ぅ、うう…ちょっとした悪戯心で…ご、ごめんなさい大佐…」 「自分に非がある事を認めるんですね?」 こくんとアニスが頷くのを見るや否や、ジェイドはアニスの腕を掴んでぐいっと手前に引き寄せた。 「はぅあっ!」 バシャンッ! 噴水に引き落とされて頭から水を被ったアニスは、ぷるぷると顔を振ってから目の前の男に視線をやった。案の定というか何というか…アニスの顔を見て楽しそうに、くつくつと笑っている。 「もぉ!何て事するんですかぁー!びちょ濡れですよぅ。」 「貴女も似たような事してるんですから、おあいこでしょう」 「ぶー!大人げなーい!」 「今更何言ってるんです。貴女はもう、私がこういう男だって知ってるでしょう?」 「大人げないって認めるんですかぁ?」 「認めざるを得ませんよ。こんな事してるんですから」 「あはは…確かに」 「まぁ、たまには水浴びも良いでしょう。夏ですし」 「あっついですもんねー」 水を手の平で弄びながら答えるアニスの唇を、ふわっとジェイドのそれが掠めた。 「…大佐?」 「…これから着替えがてら私の家に寄って、もっと熱くなっても構いませんが?」 彼の顔には、いつものごとく不敵な笑みが浮かべられていた。 「…〜〜〜変態!」 それからしばらくの間、ぱしゃぱしゃと水をかけてくる少女から楽しそうに防戦する男性の姿があったとか。 fin. <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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