日記ログ

ジェイアニ
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『ねぇママ!さくらきれいだよ!』

『そうねぇ』

『さくらほしい!ママ、えだおって!』

『あらまぁ…無理よ、アニスちゃん。ママにもパパにも届かないわ』

『えーっ!』

『大声を出してははしたないわよ、アニスちゃん。それにね、桜は折ってはいけないの。傷口から腐っていってしまうから』

『くしゃる?』

『そうよ。…ああでも、腐らせない方法があったような…なんだったかしらねぇ。いつか大切な人ができたら、その方法で桜を頂いたけたら良いわね、アニスちゃん……』




…――――

…ス――

アニ…―――




「起きて、アニス!」


「…ふみゅ…てぃあ?」

「目が覚めた?ふふ、アニスが寝坊するなんて珍しいわね」


がばっと、アニスは起き上がった。

「寝坊!?はぅあ!アニスちゃん大失態っ!」

「まぁ、たまにはいいんじゃないかしら?それより、夢でも見ていたの?」

「ふぇ?」


「桜、桜って寝言言っていたわ」

「私寝言、言ってたの?うわぁ、超はずっ!多分、昨日フィールドで桜見つけて、綺麗だなぁって思って…だからじゃないかなあ?」

「ふぅん…まぁいいわ。私、先に行ってるわね」


ぱたん、と扉が閉められた。ティアがでていったと同時に、アニスは先程の夢に思考を向けた。


「…桜かぁ、さっきの夢懐かしかったなあ…」

多分あれは3歳ごろの記憶だ。まだ借金云々の事も分からず、無邪気に幸せだったころ。子供心に妙に桜が美しく見えて、どうしても欲しかった。手に入れたら、なんだか春そのものが全て自分のものになるような気がして…


「あの頃はまだ、世界が自分中心に回ってたもんね」

アニスは自嘲するような笑みを浮かべると、教団服を羽織り、ドアノブに手をかけた。
部屋をでてすぐ。視界に入ったのは、見慣れた青。
壁に寄り掛かっていた彼は、アニスの姿を認めるとすっと身体をの向きを変えた。



「おはようございます、ねぼすけアニス♪」

「ちょ、会ったそばからそれですかぁ?ま、いーや。おはようございまーす。こんなとこでどうしたんですか?」

「アニスに用がありましてね」

「私?」

「ええ。これを差し上げに」

そう言ったジェイドの手からコンタミネーションで出て来たのは、見事な桜の枝。

「これ…」

「貴女が欲しがっていたと、ティアから聞いたものですから」


「でっでも…桜って折るとヤバいんじゃ」

「切り口を火で焼いて消毒すれば大丈夫ですよ。フレイムバースト使いました♪」

「…高さ、届いたんですか?」

「私を誰だと思ってるんです?」

おそらく、小柄なオリバーと違い、長身な彼ならどうにでもなるのだろう。


ジェイドは、ひとりぽかんとしているアニスを見、残念そうに眉を下げた。

「貴女のために手折ってきたのに、喜んでくれないのですか?」

「えっ、あのあの…それは、嬉しい、です…」


どうして大佐が自分のためにこんな事をしてくれたのだろうと思ったが、“貴女のために”という響きがなんだかくすぐったくて、アニスは頬を染めた。

「それはよかった」


はにかむように笑ったアニスに、ジェイドは満足そうに優しく微笑んだのだった。



桜の花言葉は、“精神美”と“貴女に微笑む”



そう。彼は、彼女の笑顔が見たかっただけなのだ。


fin
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