日記ログ

謎の義親子パロ2
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ジェイドは、しばし立ち尽くしていた。彼の優秀な頭脳を支配するのは、ひとつの疑問。
“あの少女は何者なのか”という事だ。

見たところ、まだ4、5歳。手足は栄養不足のためか棒のように細い。そんな少女が、どうやってあの大男達をのしたというのだ。

…と、ジェイドの思案はここで中断された。なぜなら、強烈な殺気を感じたからだ。






「………っ!」

バッ、と飛びのく。その一瞬後、彼がいた場所になにかがブンと振り下ろされた。勢いで、床板が破砕される。ミシミシと音を立てて、床に大穴があいた。
ジェイドは飛びのいて膝をついたままの姿勢で、すぐに上を見上げた。敵の姿を確認しなければならない。部下を家の外に置いてきた事を、僅かに後悔した。

そうして、ジェイドはまたも驚愕する。
薄暗闇に浮かび上がったのは、何と、巨大な人形だったのだ。それも、見覚えがある。そう。あの少女が抱きしめていた人形だ!
そうしてその人形を見渡せば、人形の背に人がぶら下がっているのがわかった。誰かなどと考える必要はない。あの少女以外ありえないのだから!

「…何の真似です」

「ぱぱとままをさがしてうちにくるのは、みんなわるい人だもん。…潰す」

「違っ………くっ!」


ジェイドが否定の言葉を口にする前に、再び人形が襲い掛かってきた。人形の爪を避けそこなって、軍服の肩当ての部分が切れる。ジェイドは軽く舌打ちをすると、体勢を立て直した。

恐らく彼女は、人形使い(パペッター)の才能が飛び抜けているのだ。普通の人間は、こんな子供ならなおさら、訓練なしに人形を使えたりしない。しかも、こんな風に自由自在になど!
今でさえこうなのだ。これできちんとした訓練を受けさせたなら、彼女の戦闘力は一体どうなるのだろう。そう考えた途端、急にジェイドは彼女に激しい興味を覚えた。ともかく、彼女を取り押さえて一度きちんと話を聞き出さなければならない。勿論、譜術を使用せずにだ。まさか国民の住宅を崩壊させるわけにはいかないのだから。



「…攻撃をやめなさい!さもないと怪我をする事になりますよ!……くっ!」

呼びかけをするジェイドに、人形の腕が振り下ろされる。

「トクナガがまけるわけないもん!潰れちゃえっ!」

巨大な人形はドカドカと殴り掛かってくる。ジェイドはそれをかわしながら、人形の動きをよく見た。確かにとんでもないパワーを持ってはいるが、その分この人形は動きが鈍い。スキは十二分にある。
ジェイドはその一瞬に人形の動きを見切ると、片足で踏み切って飛び上がり、死角に入った。身体を反らせて背後に回り、そのまま少女の肩を掴む。人形から彼女さえ引き離してしまえば、こちらのものだ。

「…ああぁっ!」

子供特有の甲高い声がすると同時に、彼女を人形から引きずり下ろした。人形が縮み、コトンと音を立てて床に落ちる。ジェイドは自らの腕に捕らえた少女を床に押さえ付けた。

「…私の勝ちですね」

部屋に、少女の息切れだけが響く。ジェイドは勝ち誇ったような笑みを浮かべてみせたが、一瞬にしてそれを曇らせた。
少女の様子が、おかしい。もっと悔しそうに暴れるかと思ったのに、そうではない。しかも、小さな身体を震わせながら涙を流して、言葉にならない声を上げている。ジェイドは、眉を潜めた。

「…どうしました」

「…あぁ、 あ、 あああ…」

「…!」

ジェイドは、はっとした。どんどん、彼女の周囲の空気が重たくなってゆく。ぱちぱちっと弾けるような音がした。なんと、少女の身体が放電しているのだ!

「まずい…!」

恐らく、音素が暴走しかかっている。迂闊だった。まさか、譜術の素養まで持っていたとは。なんて末恐ろしい子供だろう。
ジェイドは少女を押さえ付けながら対策を頭に巡らせた。一番簡単なのは、相反する音素をぶつける事だが、この小さな子供に譜術を向ける事は憚われた。彼女が衝撃に耐えられる保障はない。そうなると、彼女の暴走の理由を考えなければならない。身体的苦痛を与えた覚えはないのだから、恐らくは精神的なもののはずだ。
ジェイドは、彼女に呼びかけた。

「…意識を手離してはいけません!しっかりしなさい!」

「……ぅぅ…だめ、なのにぃっ…」

「……?」

予想外にも、少女が言葉を発した。もしかしたら、何か原因たるものを聞き出せるかもしれない。

「…まけちゃだめなのに…わるい人ぜんぶやっつけたら、きっとまま達…アニスのとこに帰ってくるもんっ…!」

「……………!」


「…アニスの事ひとりにしちゃ、やだぁぁっ…!」








…ああ、そういう事か。

確かに彼女の両親の姿は見当たらない。てっきり少し外出しているだけと思っていたのだが…そうではなかったのだ。そして、賢い彼女はもう彼らが戻って来ない事を多分知っている。だが、思考に感情がついてこないのだ。
彼女の感情を支配しているのは…寂しさ。


「…ひとりでは、ないでしょう?」

「……………」

アニスは、ぱちぱちと音素を放ったまま、黙る。沈黙を保ったまま、涙に濡れた瞳がジェイドを捉えた。


「…今、貴女の前には私がいる。」

「………………」

黙ったままの彼女を抱き起こして、小さな頭をぽんぽんと撫でた。その瞬間に、彼女が目を見開いてパチパチとする。音素の流れが、止まった。

「私と一緒に、行きましょう?」

「………いっしょ、…?」

大きな茶色の瞳が、ジェイドの瞳を見つめた。伝わってくるのは、少しの希望と、大きな不安。
ジェイドは、その小さな身体を優しく抱き上げた。ジェイドは、なんとしてもこの少女を連れて帰ろうと決めていた。それは、彼女の戦闘力が欲しいからではない。彼女のもつ何かキラキラとしたものが、ジェイドを捕らえて離さないのだ。


「…ええ、一緒にです。私がずっと…貴女の側にいますよ、アニス」

次の瞬間、 縋るように抱き着いてきたアニスを、ジェイドはしっかりと抱き留めた。









「……………っ 」

ジェイドは、はっとした。暖炉の炎が爆ぜる音に。
随分長いこと物思いに耽っていたらしい。

ジェイドは、デスクの前に腰掛ける。上から2番目の引き出しをあけて、無機的な封筒を取り出した。慣れた手つきで中の書類を開くと、見慣れない名前が目に入る。

“パメラ・タトリン”


ジェイドはひとつ重たい溜息をつくと、封筒を引き出しに戻した。
傍らのベッドを覗き込めば、そこにはあどけない顔で眠る彼の大事な少女。もう、13歳になる。ジェイドと彼女が出会ってから、8年が経とうとしていた。いまや彼女は、ジェイドのシグルスとしてのパートナーに選ばれる程に成長していた。

ゆっくり近寄ると、起こさないようにそっと前髪をかきあげる。

「アニス…」



あらわになった額に優しく唇を落とすと、その安らかな寝顔を見つめた。










「……貴女に出会ったのは…間違いでしたか…?」


continue…


で、このあとタトリン夫妻とアニスの今後について衝突して解決してバーサスへ、みたいな。すみません!続きません!
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