Present
heart fever(JA)
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「あ…………」

アニスは、言葉を失った。




それは、闘技場でのこと。
アニス達5人は、闘技場の観客席に腰掛けていた。
なぜ5人なのかと言えば、勿論ここにいる理由が仲間の試合の観戦だからだ。

今回の挑戦者は、ジェイド。挑むのは、すでに一度優勝している個人戦上級だ。その優勝済みの大会にどうして再び挑むのかと言うと、原因は赤毛の子爵。先日、三連覇したと言って大喜びしていたのは彼らの記憶に新しく、そしてルークに遅れをとる事をジェイドの自尊心が赦さなかったのだ。
バチカルに着くや否や“闘技場に行きましょう♪”と満面の笑みで提案した死霊使いに、仲間の面々が逆らえるはずもなかった。
そうして、今に至る。


「おっ、始まるぞ」

ガイの言葉に前を向けば、司会のアナウンスと共に入場してくるジェイドの姿があった。その瞬間、背後できゃっと声が上がる。


「誰あの人!?すっごいハンサムじゃない?」

「プログラム貸して!えっ…と、ジェイド・カーティスだって!」

後ろを見ると、女性ふたりがプログラムを覗き込んで黄色い声を上げていた。
…何となく、面白くない。そうアニスは思った。

別に特別な関係なわけではない(はずだ)。しかし、ジェイドの事を好き勝手言ってもいいのは自分だけだと、心のどこかで思っていた。何も知らないその辺の女が騒いでいいわけない!


アニスがご機嫌ななめになり、半目でぼうっと会場を眺めていた時。闘技開始の合図がなった。






『ジェイド選手、二回戦突破です!!』

一度優勝している事もあり、ジェイドは難無く敵を倒していく。アニスは、釘付けになって試合を見つめている。三回戦が始まった。


「………あ…」


アニスは、言葉を失う。
もう、ジェイドから目が離せない。

客観的にジェイドの戦闘をちゃんと目にしたのは、ほとんど初めてだった。普段待機用員の時は、避難経路を確保したり戦闘記録を記したりと余裕がないからだ。


(あんなに綺麗に戦う人だったんだ…。)

アニスは、思わずうっとりとジェイドを見つめた。戦いを見て美しいと思うなんて、初めてだった。綺麗な型を保ったままに、容赦なく敵を貫く、鋭利な、槍。片手でもって、無駄な動きなくかつ自由に振り回される、その凶器。
彼は平然として軽々と巨大な槍を振り回している。はたから見たら何の事はなさそうに見えるだろうが、あの槍がどんなに重くて扱いにくいのか、アニスは知っている。軍事訓練でやった事があるのもそうだけれど、実際にジェイドの槍を触らせてもらった事があったから。確か、並の重さではなかった気がする。アニスが両手でもってぎりぎり地面から持ち上がるような、そんな代物だった。その様子に、大佐にはくすくすと笑われたものだった。
それを片手で自由自在に扱う大佐の体力や腕力は、計り知れない、(とてもそうは見えない優男のくせにだ)。


魔物を吹っ飛ばしたジェイドが、詠唱に入る。止めの一撃を叩き込む気だ。
やはり、アニスは見入る。今度は、身を乗り出して。

どうしてたかだか譜術の詠唱をするだけの立ち姿が、あんなにも格好良いのだ。自身の前で構えた腕も、風に靡く髪も、全てが計算ずくなのではと思えるくらい。

『セイントバブル!』

譜術を放つ、上にかざされた腕。冷酷で、キレのある声。
もう、アニスは胸の高鳴りを止められなかった。どうしてこんなにも心が熱いのか、彼女にもわからない。(確かに闘技場は熱くなる場所だけれど、今熱いのは胸なのだ)

アニスが不思議な興奮を抑えられないでいると、調度魔物を倒し終えたジェイドがふっとこちらを見上げた。
あまりの唐突さに、アニスはどきまぎして姿勢を正す。実は視力が良いジェイドは、そんなアニスの様子を見て柔らかに微笑んだ。
まるで、“ちゃんと見ていて下さいね”とでも言うように。

かぁ、とアニスは頬を染めたが、背後から聞こえた不愉快な声にぴくりとした。

「きゃあ!私の方見て笑ったわ!」

「違うわよ、私を見たのよ!」

アニスは思わず、勝手な事言わないでよ、と罵りたい衝動に駆られたのだけれど、それより先にナタリアとガイが口を開いてアニスに笑いかけた。

「まあ!大佐ったら目敏いですわね。アニスを見つけて笑っていましたもの」

「ジェイドはアニス可愛がってるからなぁ」

タイミングの良さに、アニスは目をぱちくりさせた。現に、背後の女達は居心地悪そうに口をつぐんでいる。
それを見て、ガイがアニスにウインクしてみせる。どうやら計画的犯行のようだ。もっとも、それは彼だけで、ナタリアについては定かでないけれど(なぜなら彼女は超のつく天然だからだ)

「ほら、アニス、応援してやりなよ。絶対アニスの声援を待ってるはずだぜ、旦那」

「…うん!」





アニスの可愛らしいドスのきいた応援に、ジェイドが美麗に微笑みかえしたのは勿論のこと、





『アニース、貴女見とれていたでしょう』

『はぅあ!見てたんですか?』

『おや、私はいつもアニスの事を見ていますよ?』

『…っ!///』



試合後にそんなやり取りがあった事は、言うまでもない。


fin.
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