Present
天然の特権(GN)
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「はぁー!?ナタリアがいなくなったぁ!?」


それは、ルークの叫び声から始まった。





いつも通りの朝。宿の食堂にて6人が集まって朝食を摂る事になっている。男性陣は時間通りに集合。だが、予定時間を過ぎても女性陣が現れない。朝寝坊をしでかすのは大抵ルークであって、彼女達が時間に遅れるのはひどく珍しいのだ。

血相を変えたティアとアニスが走ってきたのは、それから15分後の事だった。



「ナタリアがいないって、どういう事だい?」

慌てる彼女達をよそに、ガイが冷静に尋ねる。もっとも、それは上辺だけの事。内心、心配で今すぐ探しに駆け出したい衝動を必死に抑えているのだけれど。

「…朝私が起きたら、もう寝台にいなかったのよ。でもナタリアの弓矢はそのままだったし…。」

「書き置きなどはなかったのですか?」

「ありませんでしたよぅ。ティアに起こされてから、とりあえずそういうの探しましたもん。でも、紙切れ一枚落ちてませんでした」

「そうなんです。それで、ナタリアが何も言わないで勝手にどこかに行くなんておかしいと思って…」


語尾が小さくなると同時に、ティアの表情が曇る。頭に浮かぶのは、六神将。ナタリアの地位を、ましてヴァンに敵対する立場を考えれば、連れ去られるという事も容易に考えられる。…が、その思考はジェイドによって打ち破られた。

「ティア。貴女が何を考えているかは容易に想像がつきますが、その可能性は低いと思いますよ」

「何でだよ、ジェイド」

「リスクが高すぎますからね。それに、ナタリアの戦闘力が侮れないものである事は向こうも承知のはずです。そういう人間は、人質には不向きですから」

「そっか、そういえばそう考えるとイオンはさらわれてばっかだったもんな。ダアト式譜術を使えるって言っても、体力的に限界があったし?」

「ええ、ですから…」

ガタン、とジェイドの言葉を遮るように、大きな音をたてて誰かが立ち上がる音がした。全員の視線の先には、爵位をもつ金髪の青年。

「とりあえず、ナタリアはまだこの付近にいるかもしれないってことだろう!?俺、ちょっと探しに走って来ようかと思う!じゃあな!」

「…え、あぁ…うん…」

ルークが返事をするかしないかのうちに、ガイは宿屋を飛び出していった。







「…悪い事しちまったかな」

独り言を零しながら走っているのは、勿論ガイ。振り返るは、先程の自分の態度。勝手に喚いて勝手に慌てて、飛び出してきてしまった。唖然としていたルークの顔が思いだされる。しかし、ガイとて気が気ではなかったのだ。なにしろ、いなくなったのは彼が守るべき、かつ大切に思っているナタリア姫。気持ちが焦り、ジェイドの話を最後まで聞いていられなかったのは仕方のないことだろう。

ガイの足は止まる事をしない。それは、ナタリアの行き先にある程度の目星がついているからだ。街の外にでたわけではないとしたら、彼女の行き先も限られてくる。彼女が見晴らしの良い丘や木の上などを好む事は、ガイ自身よく知っているのだから。



「…ここも違うか」

幾つ目かの場所で、立ち止まる。肩で息をしつつ、ぐるりと辺りを見回した。
またハズレかと踵を返そうとした、その時。
少し離れた所にある大きな木の、陰。距離があるためによく見えないが、あそこに見ゆるは金の髪ではないか?

ゆっくりと歩んで、近づく。そのまま、顔を覗き込んだ。


「…………!」


思わず、息を呑む。
ふせた睫毛の、なんと長いこと。白い肌に、赤の唇がよく映える。ゆっくりと上下する胸元は、彼女が深く眠っている事を表していた。
ガイは彼女の無防備に開かれた唇が自分を誘っているように見え、吸い込まれかけた。…が、ふと我にかえって慌てて後ずさった。

「…ナタリア?」

「……ん…、?」


ナタリアは二、三度瞼をぱちぱちとすると、くっきりとした瞳でガイを捉える。

「…あら、ガイ?おはようございます」

にっこりと、屈託のない笑顔で挨拶をしてみせる彼女に、ガイは盛大にため息をついた。
全く、本当に、必死になっていた自分が馬鹿みたいではないか。これは流石に一言物言わせてもらわないと気が済まない!
という事で、ガイは険しい目つきでナタリアを睨みつけてやった。

「あら、じゃないだろう!何も言わないで勝手に姿を消すなんて、皆が心配すると思わなかったのかい?」

勿論、怒っているわけではないのだけれど、心配からだろうか、妙に声を荒げてしまう。
ガイの剣幕にナタリアは一瞬びくりとしたが、しかしすぐに向き直った。無理もない話だ。ナタリアは姫といっても負けず嫌いかつ勝ち気で、おしとやかさとは疎遠なのだから。

「何を言いますの!?私、皆様に心配をかけるような事は致しておりませんわ!」

「何の言づてもなく、武器も持たずに宿屋からいなくなったんだ。十分心配かけてるよ!」

「言い掛かりも大概になさって!私、ちゃんと置き手紙を書きましたわよ!」

「まさか!そんなのどこにも「ほら、ここに!」


そんなのどこにもなかったぞ、と言いかけたガイは、言葉を失った。目の前では、ナタリアが自慢げに紙切れをひらつかせている。

ガイは、置き手紙の定義を一応自分の中で確認してみた。置き手紙とは、書いた本人が持っていては話にならない代物だ。そうだ、そのはずだ。

「…ナタリア」

「何ですの!?まだ何か問題がありまして?」

「…置き手紙、自分で持ってたら意味ないだろう?」



「……えっ?………あっ!」

動揺したナタリアの手から、紙切れがひらりとこぼれて、ガイの足元に落ちた。それを拾って目を通すと、早く目が覚めたため散歩に…云々、と本来こちらに知らされるべき内容が綴られていた。
当の本人はと言うと、真っ赤になって恥ずかしそうに俯いていて。ふいに、その彼女が申し訳なさそうに口を開いた。

「…すみませんでしたわ…私の、不注意です」

そうして、深々と頭を垂れる。

…これだから、憎めないのだ。傲慢なのかと思いきや、実はとても素直で。しかも彼女は超ド級の天然。いつだって、少しも悪気はないのだ。そう考えて、ガイはふっと吹き出してしまった。
その音に、俯いていたナタリアが恐る恐る顔を上げる。どうやら彼女は、まだガイが怒っていると思っていたようだ。

「…あの、ガイ?」

「…仕方ないか。それがナタリアなんだもんな」

「…?」

「いや、何でもないよ。ただ、ナタリアはナタリアのままで良いって事さ。」

「…よくわかりませんけれど…もう怒ってらっしゃらないの?」

「最初から、怒ってないよ。ただ、君の事が心配だっただけさ。キツイ言い方をしてしまって、悪かったね」

「まぁ!ガイが謝る事なんて一つもありませんわ。むしろ感謝するべきですわね。私を正しくたしなめて下さるのは、昔から貴方だけですもの」


ありがとうガイ、と彼女がとびきりの笑顔で言うものだから、ガイは軽くたじろいでしまう。抱きしめたくなる衝動を必死に抑えて、(でないと自分の身体が悲鳴を上げる事は目に見えている)優しく彼女の髪を撫でるにとどめた。


(怒ってないのに怒鳴るし、身体が拒否するのわかってて抱きしめたくなるし)

「…っとに、振り回されてるなあ…俺」


苦笑する青年の呟きは、幸か不幸か、天然な彼女の耳には入らなかった。



fin.
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