Present
無意識攻防戦(JA)
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水の滴る金茶の髪をタオルで擦りながらインナー姿のジェイドが浴室を出ると、寝台の方に人影があった。布団が、人ひとり分ぽっこり膨れている。

浴室へ向かう前この部屋にはジェイド一人しかいなかったのだから、彼が入浴している間に忍び込んだ事は明白。死霊使いと恐れられる彼の部屋に忍び込む物好きは刺客とその他一部の例外くらいなものだ。殺気もないため、特に警戒もせずジェイドは寝台に近寄った。

声をかければ、振り返ったのは案の定、見慣れた少女の顔。

「お帰りなさーい、大佐」

「…何をしてるんです」

「そんな怪しい者見るみたいな目で見ないで下さいよぅ。今夜は冷え込むから、大佐のお布団暖めてあげてたんじゃないですかー」

「いやーそうでしたか。でしたら私はそろそろ寝ますので、もう結構です。どうぞご自分の部屋へお帰り下さい」

明らかな棒読みで退去勧告する男を、じとりと睨む。自身を包んでいる毛布に、しがみつくようにきゅっとくるまった。

「やだ!アニスちゃん、寒くてひとりじゃ眠れなかったんだもん。大佐のカイロになってあげるから、ここに置いて下さい!」

「カイロはどっちですか。貴女が私を使うつもりでしょう」

「細かい事はどーでもいいんです!とにかくここに置いて下さいっ!凍えちゃうよ!」


「…一応ここは男の部屋なんですがねぇ…」

溜息まじりにこぼす男の顔を、アニスがきょとんとした様子で見つめた。

「男って言ったって…大佐じゃないですか。」

ジェイドは溜息と共によそへやっていた視線をふいにアニスへ向けると、彼女が気付かない程度に再び溜息をついた。


(…何も分かっていない)


普段恐ろしい位に鋭い少女は、肝心な所で抜けている。彼だからこそ危ないとは、みじんも考えないのだ。ジェイドは、一度男の危険さを教えてやろうかと考えたが、とどまった。アニスはもう、ジェイドに背を向ける形で目を閉じている。期を逸したのだ。無論、不自然な呼吸から狸寝入りである事は一目瞭然なのだが。

ジェイドはやれやれと苦笑いを浮かべると、寝台へ潜り込む。隣に温かな体温を感じながらもそのまま眠ろうとしたが、やめた。
警告くらいは、してもいいかもしれない。


ジェイドは少し身を起こしてアニスの枕元に手をつく。湿った金茶の髪が、彼女の頬を擽った。その擽ったさからか彼女の瞼が小刻みに揺れて、やはり寝たふりだった事を確信する。
小さな耳に唇を寄せた。

「…次はありませんよ」

甘く囁かれた警告にアニスの肩がぴくりと反応したのを見、ジェイドは満足げに口端を上げる。寝たふりをしている以上、アニスは迂闊に動けない。頬を染めながら狸寝入りを続ける様は、可愛らしく思えた。


ジェイドは気まぐれに華奢な肩を抱き寄せると、柔らかな黒髪を弄びながら上機嫌で眠りについたのだった。

fin.
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