Present
吾輩の辞書に反省の文字はない(JA)
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「アニス」

「…………」

「アニス」

「……………」

ジェイドは、この日何度目になるかわからないため息をついた。

アニスは、朝から返事をしない。これは、ジェイドが今朝アニスの着替えを覗いてしまった事にある。勿論故意ではなく、気安さからうっかりノックを怠ったゆえなのだ。しかし、それだけではない。これは、2度目なのだ。彼は以前にも同じ過ちを犯しており、しかも今回はまだ彼から謝罪の言葉を聞いていない。だからこそアニスは怒っているのだ。

「アニ―ス」

「……………」

「…いい加減、口を聞いては頂けませんか。これでは、弁明もできやしない」

「……………」

あくまで口を開かない恋人に、ジェイドは肩を落とした。ジェイドは目を閉じ、何か意を決するようなそぶりをみせると、アニスの背後からその身体に腕を回す。アニスの肩が、ぴくんとはねた。
ジェイドは彼女をしっかり抱きしめると、その耳元に唇を寄せた。

「…アニス…許して下さい。私が不注意でした。」




瞬間、その言葉が引き金だったかのようにアニスが振り向いた。

「もぅ!謝るのが遅いですよぅ!大佐ってば大人げないんだから。」

「…すみません」

「3度目はないですからね♪」

「…………ι」

ジェイドは苦笑しながらも、そうですね、と答えた。全く、彼女には敵わない。
そのままアニスを抱きしめていると、ふいに彼女の髪の香りが鼻腔を擽った。昨日嗅いだばかりだろうに、懐かしいと思うのはどういうことだろう。たった一日離れていただけでこんな風に感じるとは、自分も重症だなとジェイドは思った。
それにしても、可愛いシカト程度で許してくれた彼女には感謝すべきなのだろうが、なんだか納得できない。今日一日アニスと接触できなかったせいで、えらくストレスが溜まってしまった。彼女には、埋め合わせをしてもらわねばなるまい。…とジェイドは、自分の失態は棚にあげて無茶苦茶な事を考えた。


「アニース」

なんですかぁ、と顔を上げたアニスの唇を、間髪おかずに奪った。

「…んっ……っ!」

逃げようとするアニスの頭を押さえて、深く口づける。
アニスが苦しくなるのを見計らって、ジェイドは潔くその唇を解放した。

「は、ぁ……ちょっと大佐!いきなり何するんですかぁっ!」

「おやアニス、そんなふうに眉間に皺を寄せては可愛い顔が台なしですよ」

「ごまかさないで下さいっ!」

怒りと恥じらいの入り混じった表情でジェイドを見上げるアニスを、彼は楽しそうに見つめた。

「貴女が口を聞いて下さらなかったせいで、私は今アニス不足なんですよ。責任とって下さい」

ジェイドの言葉に唖然とするアニスの頬に、彼は軽く唇を落とした。ジェイドのあまりに自然な仕種にアニスは頬を染めたが、我に返った瞬間…アニスのこめかみには、青筋が。


「…なぁにが、アニスちゃんのせいですって?」

「ア…アニス、目が据わっていますよ?」

「この…変態中年がぁーーーっ 」



この後、ジェイドは3日間アニスに口を聞いてもらえなかったとか。


かくして、物語は冒頭に戻るのであった(笑)。

fin.
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