Present
自業自得の終着点(JA)
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一体どうしたのだろう?
それは、見慣れない物を目にした仲間達の感想だ。

「…珍しい、よな」

「そう、よね」

「謎だなー」

「一体どうしたのでしょう?」


宿屋のフロントにある4人掛けソファに腰掛けてこそこそと小声で話しているのは、ルーク、ティア、ガイ、ナタリア。そして彼らの目線の先には、少し離れた場所に座っているジェイドだ。
一体、なにが珍しいというのか。答えは、死霊使い殿の態度にある。
普段、冷静沈着で何事にも動じないはずのジェイドが、妙にそわそわして、落ち着かない。しかも、彼の顔にはいつもの薄笑いが見られない。無表情、だ。彼は、窓の外に目をやっては溜息をついている。

「…あ」

ふと、ガイが何か思い付いたように声をあげた。それに反応して目を輝かせてガイ近寄ったのは、ナタリア。

「ガイ、何かわかりましたの?」

「…アニスだよ」

「は、アニスかよ?」

「どういう意味?」

頭に疑問符を浮かべていた4人だったが、窓の外を見ると一様に納得したようだった。
機嫌の悪そうな死霊使いが散歩と称して席を立ったのは、それから5分後の事。







「きゃわ〜ん☆ありがとうございましたぁ!とっても楽しかったですぅ」

笑顔を振り撒いて男性を見送るのは、豊かな黒髪を揺らす少女。

「こちらこそ。またね、可愛いお嬢さん」

少女は男性が去ったのを確認すると、すぐ側のベンチに腰掛けた。
実は、彼女は数時間前にもここに座っていたりする。目的は、逆ナンパ。…と言っても、自分から声をかける訳ではない。声をかけさせるのだ。
そう。黒髪の少女とは、アニス。言うまでもないが、彼女の目的はガルド。奢ってもらうケーキや紅茶は美味しく頂くとして、貢いでもらった貴金属を後で換金しようと企んでいたりする。

「…あ!ターゲット発見〜♪」

アニスは嬉々とした声で呟くと、居住まいを正した。

目をつけた男性の方を、潤んだ大きな瞳でもって見上げる。そしてそのまま、可愛らしく首を傾げた。その動きで柔らかな黒髪が、ふわりと揺れる。実は、大人っぽく見えるようにといつものツインテールを解いて軽く巻いているのだ。実際、若干大人びて見える。少なくとも、彼女が13歳だと気づく者はいるまい。ましてアニスの顔立ちは美少女の部類に入るわけで、そんな少女に可愛い仕種と上目遣いとで見上げられたら、素通りする男などいるはずがない。
アニスの思惑通り、男性が近寄ってきた。

「ねぇ、一人?」

「…は、はい」

「じゃあさ、どっか遊びに行こうよ。ご馳走するからさぁ」

アニスが、しめた!と心の中でほくそ笑んだ、その時。男性があらぬ方向を向いて手招きをした。現れたのは、男性の仲間らしい男性。

(嘘!二人組なの!?ていうかよく見るとガラ悪そうだし…やばい、逃げよう!)

アニスの中で危険信号が鳴り、立ち上がって逃げようとしたその瞬間、ぐいと腕を掴まれた。

「ちょ、離して下さいっ!」

「ねぇ、俺達のお相手してよ」

「ふざけないで!離してったら!」

「いいじゃん?楽しいとこ連れてったげるよぉ?」

男が、にたぁ、と笑った。アニスの背筋に悪寒が走る。さらにぐいと引き込まれて、逃げられないと思った、その時。

目の前の男達より圧倒的に強い力で、引かれているのと逆の方向に引っ張られた。アニスの体は後ろに傾き、そしてぽすんと大きな何かに支えてもらう形でおさまった。

「失礼。私の連れに手を出さないで頂けますか?」

「…た、大佐!」

「…んだよ、てめぇ」

「おい!やばいって!逃げようぜ!」

彼らの前に現れたのは、言わずもがな、ジェイド・カーティス大佐だ。一人の男がジェイドに刃向かおうとしたが、もうひとりが慌てて止める。それもそうだ。今の死霊使いの表情は、恐ろしい形相をしている。殺気が滲み出ている満面の笑みに、怒りのせいでいつも以上に真っ赤な瞳。手にはすでに槍が握られている。命が惜しいのなら、退くのが正解だろう。男達は、舌打ちを残して走り去っていった。



「…あの、大佐…」

「ナンパがしたいにしても、誘う人間は考えた方が良いですよ?」

アニスが、後ろめたそうにジェイドに振り向く。見上げて目に入ってくるのは、いつもの優しい笑みとは違う、どちらかというと冷たさを含んだ微笑み。口元は孤を描いてはいるが、目が笑っていない。向けられた表情に、アニスは急に泣きたくなって、所在なさげに視線をさまよわせる。とりあえずは、正直に白状するべきか。

「…あの、その…。この間ダアトに寄った時確認したら、パパ達の借金が増えてて…それで…」

「…………。」

「あの…怒ってますか?」

「…どうでしょうね?」

(どうしよう…絶対怒ってる…!)


アニスは、覚悟を決めて素直に謝罪する事にした。俯いていた顔を上げて、おずおずと彼と目を合わせる。

「…ご、ごめんなさい………っひゃ!?」

突如ジェイドに腕を引かれたアニスは、側にあった柱に背を押し付けた体勢になる。わけのわからぬまま、深く口づけられた。しばらくして抱擁から解放されたアニスは、顔を真っ赤にして手で口を抑える。

「な、なっ……!」

見上げればそこには、いつも通りの不敵な笑みをたたえた死霊使い。

「先程の言葉から察するに、貴女は私を怒らせるような事をした自覚があるようですからね。悪い子にはお仕置きが必要かと思いまして」

「だからって…っ!こんな人前で…」

「おやおや。人前じゃないとお仕置きにならないでしょう」

「………っ///」

顔を紅潮させて不服そうに彼を見上げるアニスに、ジェイドはくすりと微笑んだ。

「ほらほら、お仕置きは始まったばかりですよ。おとなしく目を閉じなさい。私を妬かせた罰です」

ジェイドの言葉に、もしや妬いてくれたのかとアニスは嬉しくなったのだが、与えられる熱に、すぐにそんな余裕はなくなったのだった。


数十分後、宿に戻ったアニスが、ずっと窓から見ていたらしい仲間達にからかわれたのは、勿論のこと―――――。


fin.
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