リアルタイム


ここへ来て、どれくらい経ったのだろう。
地上の喧騒は聞こえなくなってしまった。

「冬也さん、そろそろ仕事切り上げませんか?」

机の上で束になっている書面とにらめっこをしていた冬也は、上から降ってきた声に顔をあげた。

そこには、彼の事を心配そうに見る陽がマグカップを持って立っていた。
心配そうに首をかしげると、彼女のポニーテールも一緒に揺れる。
陽はマグカップを冬也の机の上に置いた。

「斉藤さんが、差し入れにと」

「うん。ありがとう」

冬也は陽に微笑むと、置かれたマグカップに手を伸ばした。
中身はブラックコーヒー。
頭が冴える。彼はありがたく口をつけた。

そんな冬也を見た陽は、首を小さくかしげて一言。

「それにしても、本当に不思議です」

「ん?何が?」

「どうして、貴方はこんなにも人を統率できるのかと」

「あー……」

「それに、私達がやっていることは決していい行いだとは思いません。それなのに、何故みんな貴方についていくのかと」

「うーん……」

普段から真面目な陽が、いつも以上に真剣な目をしている。
彼はマグカップに口をつけたまま、小さく苦笑いを浮かべた。

「前から疑問に思っていたんです」

陽の不思議そうな、それでいてどこか強制的な視線が冬也に注がれる。
冬也はと言うと、マグカップから出ている湯気で眼鏡を曇らせていた。

「じゃあ、逆に訊くけどさ」

彼はマグカップから顔を離し、机の上に置く。
そして、小さく笑みを浮かべた。

「陽ちゃんは、何でここにいるの?」

「えっ……?」

陽の顔が固まる。
彼はそれを確認するかのように、曇った眼鏡を取り、近くに置いてあった眼鏡拭きに手を伸ばした。

思ってもいない返しだったのか、徐々に彼女の顔に動揺の色が見え始める。
それを追い詰めるかのように、彼は不敵に微笑んだ。

「オレが思うに、キミがここになぜいるか、なんて理由はないんじゃないかな」

「えっ?」

意味が分からない、と言わんばかりに眉を寄せる陽。
眼鏡を拭きながら、冬也は先を続ける。

「キミがどんな目的でここに入ったのかは知らないよ。だけどね、大抵の人は"なんとなく"って言う理由でここにいるんだよ」

「そんな適当な……!」

「所詮、そんなもんなんだよ。キミみたいに、今オレ達がやっている事が世間的に悪だって理解して行動している人、この組織に何人くらいいるんだろうねぇ……」

「……」

遠い目をしながら、彼は再び眼鏡を掛ける。

そして。

「幸福も不幸も善も悪も、所詮それぞれの価値観でコロコロ変わる様な薄っぺらいものだと思わない?」

「……」

「入るときはみんな一緒。正しいと思っているからここに入る。でもね、やっぱり間違いだって気付く人もいるんだよね、キミみたいに」

「そんな、私は……」

口ごもり、冬也から顔を背ける。
それでも彼は話を続ける。

「それでいて、中にはこの行動は正しいって思っている人もいるから不思議だよね。人の価値観なんて、そんなもん」

「……」

「何故みんながオレについてくるのか。そんなのオレが知りたいよ。それこそ、皆違う価値観を持っているからね。
オレはただ、集まってきた駒を動かすだけの人間にに過ぎない」

「……」

彼女は俯き、すっかり黙り込んでしまった。
そんな彼女に彼は訊く。

「ねぇ、陽ちゃん。キミはどうしてここにいるの?」

「私……私は……」

俯き、口の中で小さく唱える。
そして、彼女は顔を上げ笑った。

「私は……ここにいて、実行すべき目的などありません。ですが、ここにいるだけで心が満たされるのです。
確かに、世間的には悪かもしれません。しかし……どうしても、止められないのです、自分を」

「そうなの?」

「はい。どうしても、貴方についていきたくなるのです。やはり、冬也さんの人間性に惹かれたからなのですかね」

「……」

陽の言葉に、驚きの色を見せる冬也。
しかし、彼はニッコリと笑って

「それも価値観の一つだよ」

と返しただけだった。


――――――

自分で何書いてんだか分かんなくなったべさ(´・ω・`)

夜のテンション単発お粗末さまでした!

冬也くん難しいけど楽しい。




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