diary3

2024年3月15日(金)
【2024年3月15日】
吉村昭の「遠い日の戦争」という中編小説を読みました。
吉村昭というと昭和期とくに戦後のノンフィクションの作家というイメージを持っています。昨年は吉村昭の「関東大震災」を何度も読み返しました。

しかし「遠い日の戦争」は主人公の
の逃避行を描いた小説、はっきりノンフィクションともフィクションとも見分けがつかない、非常に史実に忠実でありつつ、細部は作家のイマジネーションで書かれたかのような「実録小説」と言った体の作品でした。

それほどドラマチックな展開を強調することはなく、抑えられたタッチで淡々と進んでいく300ページの物語でした。僕は主人公にはほとんど感情移入することがないまま読み進めました。

もともとこの小説を読むことになったのは、油山事件について調べている最中にこの作品の存在を知ったからです。油山事件とは1945年8月9日と14日に、大日本帝国陸軍西部方面軍司令部がアメリカ軍の捕虜を複数名日本刀で頭部を切断し、斬殺した事件、狭義ではその事件を言いますが、関連して別のアメリカ軍捕虜を九州帝国大医学部の生体実験に用い、死に至らしめ、かつ人肉食をした事件も同じ日本軍による戦争犯罪を戦勝国の側から裁く東京裁判の審理において扱われました。

8月9日の油山事件と同時、同場所において、陸軍憲兵隊により、5月に起きた特攻戦闘機「さくら弾機」を故意に放火破壊した容疑で植民地朝鮮黄海道から徴兵され、特攻隊に配属された創氏名 山本辰雄伍長(朝鮮名不明)を、福岡憲兵隊が銃殺したという事実も、林えいだい氏のノンフィクション作品によりわかりました。

その二つの別々の、片や戦争捕虜に対する虐待行為と、侵略した国の国民に改名を強制し、自国民として徴兵し、さらに特攻作戦に従事させたという人権侵害と、差別意識にもとずく不充分でずさんな憲兵隊の捜査、苛烈な拷問による自白の強要、一方的な軍法会議の末の死刑という名の殺人、そしてどちらも日本により不都合な歴史事実として葬られようとしたことを
思い起こす必要があります。

吉村昭の小説作品は
前者の実行犯の陸軍下士官をモデルに
一度は逃亡し、やがて占領軍とその指示の下に容赦なく同胞を追い詰めた当時の警察権力によって捕まり、戦犯裁判を受け、その後の姿を描いています。

吉村昭は「関東大震災」においてもそうでしたが、作家から観て人物がどう見えているかを、史実に基づきつつ、わりとはっきり書き分けているように思います。吉村から観て共感できる人物か否かが、文章から伝わってきます。「遠い日の戦争」では主人公を含め登場するほぼ全ての人物、さらには
登場しないけれどもその時代の前提としての日本の国民やアメリカ軍、アメリカ国民に対しても、全体的に突き放したように淡々と描かれているように思いました。

なぜならば作品の中での日本人とアメリカ人の姿の描写ですが、敗戦を迎え、占領され敗戦国民として、不当な扱いを受ける苦しみ、悲しみ、恨みを感じる姿は描かれても、その戦争の原因が日本による東アジア、東南アジアへの侵略であり、そこに住む他国の人民に対する残虐行為や人権の侵害があったことに対する反省を持っていなかったことも暗に示されます。あるいは戦勝国として同志を殺された戦争犯罪を執拗に厳しく裁くアメリカ人の姿は描かれていますが、日本本土空襲や沖縄戦、二つの核攻撃で非人道的な大量殺戮をしていることには、無反省で道義的責任を棚上げしていたことも暗に示されています。

それぞれの自分たちの民族や国民が受けた仕打ちしか見ようとしない欺瞞性に対する告発と、しかしそれが人間の戦争の歴史上常に繰り返されてきた避けられない習性であるという諦念を感じました。


そして吉村昭はこのような戦争をした者たち、その時代の国家と人間の姿を描くことで、後の世の中に対してのメッセージを発していると思いました。
その後の世の中こそ、まさに私たちの生きる今現在なのではないかと、強く思いながら。

3/15^01:46
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